よみがえる親子探偵

D・J・コビー

【前回までのあらすじ】
 トミ子おねえさんをさらったプルプル怪人を、ついにおいつめた親子探偵。神宮寺のはなった探偵ひみつぶき、必殺(ひっさつ)の科学ピストルは、あやまたず怪人をとらえました。しかし、怪人のからだは、当しょ計算した粘性(ねんせい)ではなく、強力な弾性(だんせい)をしめしたため、体内にとどまって怪人をしにいたらしめるはずのとくしゅ弾丸は、グニャンとはねかえり、ぎゃくに神宮寺を必殺してしまったのでした。ウーティス博士がおりわるく虫垂炎(アツベ)で入いん中だったため、ほかのひみつぶきはオーバーホールがおわっていません。少年刑事(けいじ)のジローにおうえんをようせいしましたが、帝国道路(ていこくどうろ)での、ふかかいなじこがひきおこしたじゅうたいのために、すぐにはやって来られません。ジュニアはまっぱだか同ぜんで、敵(てき)とたいすることになったのでした。
 かれはたった一人で、この強敵にうちかつことができるのでしょうか?

『天才少年のかけひき』

 怪人の笑い声が、せまいどうくついっぱいに、おどろおどろしく広がっていきます。はんきょうして、あちこちはねまわる水てきの音、くさいヘドロのにおい……。しかし、ジュニアは、もうおそれてはいませんでした。神宮寺をころされたいかりで、かれはいつにもまして正義(せいぎ)の心にもえており、いまや大人はだしの、つよい探偵へとせい長をとげていたのです。
「こわいだろう、おそろしいだろう。こんなぶきみな、くらいところで、少年ひとりぽっち、プルルルルル……むりもないさ。しかし、ジュニアくん、そういつまでもふるえているばかりでいいのかな? 早いところ、そいつをまいそうしてやって、もにふくさなければならないのではないのかね。しんだ人間というのはね、とくにこのあついさかりにはね、あっという間にくさってしまうんだよ」
 少年が、いつまでもうつむいたままおしだまっているので、ごうをにやした怪人が、しゃべりだしました。
「ごほん……そこで、だ。とりひきをしないか?」
 少年のクリクリあいらしいひとみに、にわかにするどい光がやどりました。
「と・り・ひ・き?」
 じつは、こんなじょうたいでも、かれはへいじょう心をたもち、あいてがうごきだすのをまっていたのです。そして、すっかりおちついて、かれのほこりである父、故(こ)・神宮寺又一郎の口ちょうをマネして、こんなことを言いはなったのです。「いいだろう、話してみたまえ」ぜんたい、この子、どういう子なんでしょう……。おそるべき小学2年生と言わねばなりません。
「その、科学ピストルとかいうやつ、わたしにくれないだろうか? みをもって知ったのは、それは、とても強力なぶきだということで、だからこそわたしは、世界せいふくの、大きなたすけになると思っているのだ」
 なんと、怪人は、いまや形見にもひとしいこのピストルを、よこせというのです。しかも、そのピストルはまだ、神宮寺の、あゝ……あのたくましかった手が、かたくにぎりしめているというのに! それまでおちつきはらっていたジュニアも、すっかりとりみだしてしまいました。
「そんなこと、できるもんか! みろ、あの、ろう人形のような手……お父さんはもう、とっくにこう直がはじまっているんだ!」
「おやおや、するとここに小さなろう人形かんがたつことになるけれど……それでも、いいかなァ?」
 そう言って、怪人がふり上げたこぶしは、まるでおのれの力を、こじするように、ぶるんぶるんとうなりました。神宮寺をなきものにした、強力な弾性……力ではとうてい、たちうちできるものではありません。ジュニアのぶきは、弱かん6さいでハイパーグローバル大学への入学をみとめられた、そのはかくの、頭のうです。しかし、まさにそのジュニアの計算によって、神宮寺はまけてしまったのです。でも、むりもありません。あいてはじっけん室にある生めいのないスライムなんかではなく、人るいをがいする、怪人なのです。あきらめましょう。うつ手はもう、ありません。じゅうぶん、りっぱにやったじゃないですか……。怪人がすっかりかちほこって、高笑いをしているのを見て、ジュニアは色をなします。しかし、すぐにまゆねにしわをよせてくるしげな顔つきになると、だんだんと、おだやかな、この世のすべてをさとったような笑みにかわってゆきました。
「なに、お父さんと同じ地でしねる。本もうじゃないか……」
 父とのなつかしい思い出に、ひたっているのでしょうか。怪人は、こらえきれないといったようすで、こう言いました。
「まったくきみってやつは、親孝行(こうこう)ものなんだねえ……えらい、えらい。おっと、そんなこわい顔をするのは、よしにしてくれないか。これでも、本当に、かん心しているの、だから、ねえ……プルルッ。でも、トミ子は、どうするのかな? かの女はきみたち親子探偵との心中を、ねがっているのだろうか? なっとくずくなのだろうか? プルッ、まさかね……。探偵でも、なんでもない、市井(しせい)の、女学生にすぎないんだよ……なにっ、ひきょうものだと? ううん、もっと言え! ああ、気分がいい。わたしはそうやって言われると、もううれしくって、小おどりしてしまうのさ……プル、プル、プル!」
 なんということでしょう、いまやくっ強な戦士(せんし)の高みにたっしたジュニアといえど、小学生には、にがかちすぎるせんたくといわねばなりません。しんだ父の手から形見をもぎとって悪者(わるもの)にわたしても、なんのつみもない、か弱いおねえさんを敵のとりこにゆるしても、社会てきひなんはまぬかれません。探偵にとって、世論(よろん)というものは、強い味方になることもあれば、怪人にもひけをとらない、きょ大なおそろしい敵になることもあるのです。
 しかしかれは、ほこり高き名探偵の、その息子(むすこ)です。ここでトミ子を見ごろしにすることは、父ものぞむところではないはずです。ジュニアだって、まだときどきおねしょをするけれど、それでもりっぱな名探偵なのです。こぶしをきつくにぎりしめると、すっかりけっ心して、ピストルに手をのばすのでした。
「そう、そう、その調子(ちょうし)。正義だなんだと言ったって、けっきょくお前らはわたしたちと、ご同るいなのさ……プルルルルゥルゥルゥ」
 かくごをきめたジュニアが、神宮寺の親ゆびをつかんで力を入れますと、力強いていこうをかんじました。こう直とは、またちがうようです。これは、どういうことなのでしょうか……? かれは、父親の顔を、おそるおそるのぞきこんでみました。すると、そのほおには、赤みがさしているではありませんか。ジュニアは、えもいわれぬ、高ようをおぼえました。そのたくましい首ッ玉に、かじりつきたくなりました。ジュニアも、まだまだあまえんぼうなのです。しかし、そんなことをしては、怪人にかんづかれてしまいます。神宮寺はうす目をあけて、少年をたしなめるように、小さくウインクをしました。なんというきせきでしょう! われらのヒーロー、神宮寺又一郎は、じつは生きていたのです。

 なぜ、こういうことになったのでしょうか? そろそろ、みなさんおまちかねの、たね明かしの時間です。でも、とてもざんねんなことに、ここでまい数がつきてしまいました。神宮寺きせきの生かんのひみつについては、つぎのお楽しみに、とっておくことにしませんか? それまで、せんぷうきにあたりすぎて夏かぜなどひかないよう、また、お父さんお母さんの言うことをよく聞いて、水分をじゅうぶんにとって、体ちょうを万ぜんにしてまっていてくださいね。
 では次回『神宮寺のご算 トミ子は女スパイ?』まで、しばしのおわかれです。さようなら、さようならみなさん、よい夏休みを!

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