B級グルメダンディ、ハロー。

少年の日の心の中にいる青春の幻影

 やぁ、また会ったね。このバーボンは僕のおごりだ。
 え? 初対面? まぁ、細かいことはいいじゃないか。じゃぁ、早速だけど今日は『カレー』の話をしよう。
 この世には二種類のカレーがある。何かわかるか? 答えは「うまいカレー」と「まずいカレー」だ。
 いや、味の話じゃないんだ。ジャンルなんだよ。「うまいカレー」というジャンルと「まずいカレー」というジャンルがある。わかるか? 「まずいカレー」ってのは、例えば学食のカレーとか、病院のカレーとか、駅の立ち食いそば屋のカレーとか、まぁそういうカレーのことだ。「うまいカレー」はそれ以外だ。
 で、今日の話は「まずいカレー」の話だ。しかも、うまい「まずいカレー」の話だ。
 あ? 混乱してきたって? 「まずいカレー」ってのはただのジャンルだ。だからうまい「まずいカレー」ってのは存在する。つまりそういうことだ。

 京浜東北線ってあるだろ? そうだ、水色のラインが眩しい電車だ。まぁ、京浜東北線ってのは実はなくて、東北本線、東海道本線、根岸線を通る電車の通称らしいんだ。俺も鉄ちゃんじゃないから詳しくはしらないけどな。まぁ、京浜東北線だ。
 俺が学生の頃にmixiのカレー好きコミュで見たんだが、品川駅の京浜東北線のホームの立ち食いそば屋のカレーが旨い、と。「ホワイトカレー」なるものが絶品であるってな。
 当時、俺は調布に住んでいて、品川駅に行くことなんて年に一、二回あるかないかだった。しかし、「ホワイトカレー」、気になるだろ?
 まぁ、しかし、悲しいかな、貧乏学生でな。金がなくて金がなくて。仕方ないから学生寮の友達の部屋を、米びつもって回って米を一合ずつめぐんでもらったりしていた身だ。わざわざカレー食いに品川まで行くような余裕はなかったわけだ。
 時が経って、俺は社会人になった。満員電車に揺られて片道一時間の通勤だ。その通勤先がなんと品川だったんだ。これは例の「ホワイトカレー」を食う絶好のチャンスだ。でもなかなか行く機会がなかった。新卒一年目で気が張ってたし、「ホワイトカレー」のことなんてすっかり忘れてた。

 で、だ。ある日、たまたま会社を早く上がれて、丁度夕飯時。御殿山の方から品川駅に歩いて行くと途中にラーメン屋が何件も集まってる場所があってな、腹も減ったし、そこでズズーっとラーメンすすって帰ろうと思ったんだ。だけど、どこもすごく並んでてな……。腹減ってて、すぐに飯くいたかったんだ。で、ふと思い出した。「そうだ、ホワイトカレー、食おう」ってな。
 そっからが大変だった。なにしろ、mixiで情報を見たのは何年も前だ。「立ち食いそば屋」「ホワイトカレー」っていうキーワードは覚えていたんだが、「なに線のホーム」かってことを完全に忘れていた。もう、脳内は完全にまだ見ぬ「ホワイトカレー」だ。JR品川駅、ホームがいくつあるかしってるか? 一番線から十五番線まであるんだよ。改札に入ってからそのことに気づいた俺。ずらりと並ぶホームを前に覚悟を決めたね。「よし、虱潰しだ」と。
 で、何をとち狂ったのか、俺は改札から一番遠い横須賀線ホームから探索を始めたんだ。改札に一番近い山手線ホームから探せば二つ目のホームでたどり着いたってのに、バカだねぇ。しかも、横須賀線、東海道線は十五両編成の電車が発着するホームだ。だからホームが他のホームに比べてバカみたいに長い。帰宅客でごった返してて、ホームに降りただけじゃそこに立ち食いそば屋があるかどうかなんて分からない。当時の俺は何を意地になってたんだか、横須賀線、東海道線、薄暗い臨時ホームとくまなく歩いて、そしてついに、四つめのホーム、京浜東北線のホームで蕎麦屋を見つけたんだ。

 歩きまわってヘトヘトだわ、腹が減ってふらふらだわですぐに蕎麦屋に入った。出汁のいい香りがまた空腹を加速させるんだ。その店は食券制でな。早く食いたい、もどかしい気持ちを押さえて券売機の前に並んだ。

 そしたら、無いんだよ。

 渇望し、歩きまわり、探し求めた「ホワイトカレー」が券売機に無い。何度も見なおして、指差し確認までやったけど無いんだ。あれ、おかしいなぁ……と思いながら店員に「ホワイトカレーってありますか?」と聞いたら、店員のおばあちゃんが顔をくしゃくしゃにして、なんだか困った顔してな。腹も限界まで減ってたし、コレ以上は面倒だと思ってただのカツカレーを頼んだ。
 カツカレーはすぐにでてきたよ。銀色のちょっと底の深い皿にあふれんばかりのライスとルーとカツが盛られていた。このカレーがまた手本のような「まずいカレー」でな。味はといったら超普通なんだ。超普通。
 なんだか、虚しくなったね。おれは一体何を探し求めていたんだろう……って。宝探しの大冒険に出て、いざ目的の宝箱を開けてみたらコンビニで売ってあるようなものしか入ってなかったみたいな感じか。
 まんまと一杯食わされた、と思ったね。カレーだけに。

 でもな、mixiの情報は嘘でも間違いでもなかったんだよ。
 誰が想像する? あんだけ長い東海道線のホームには一軒も立ち食いそば屋が無いというのに、京浜東北線のホームには二軒立ち食いそば屋があるなんてな。
 mixiにはこう書いてあった。「京浜東北線ホームの田町側の立ち食いそば屋」ってな。俺は「大崎側の立ち食いそば屋」に行ってたわけだ。ハハッ。家に帰ってから数年分のカレー好きコミュニティの過去ログを読み漁ったかいがあったってもんだ。
 これで、場所は分かった。場所が分かったら次は何するか。決まってるだろ? リベンジだ!

 結論から言おう。「ホワイトカレー」は無かった。販売を終了していた。もう、あの、カレー好きコミュニティで絶賛されていた「ホワイトカレー」は永遠に失われてしまった。理由は分からない。だが、品川駅の京浜東北線ホーム田町側の立ち食いそば屋の券売機のカレーの並びには、不自然に空いた「空(から)」のボタンがあるだけだった。
 正直、もういいかな……と思ったね。何も食わずに店をでて、港南口の天狗でやけ酒して帰ろうとも思った。でも、その時、俺の目を奪うメニューがあった。

「ガーリックライスカレー」

 シビレタね。ものを思うよりも先に身体が動いていた。すぐに食券を買って、セルフで水を汲んで待つこと数秒。白く、どでかい長方形の平皿に小高く盛られたガーリックライス。白いゴハンに薄切りの生にんにくがドサドサと混ぜ込んである。にんにくの香りが鼻孔をくすぶるわけだよ。そして、ガーリックライスの山を覆う黒いルウ。具はほとんど無いが、ゴロ、ゴロと、よく煮込まれた柔らかい牛肉の塊が、二つ、ルウの海に鎮座している。ああ、ルウもいい香りだ。
 俺はライスが露出している方を右側に配置して食べる派だ。ルウとライスの境目をスプーンにとり、口に運ぶ。
 口の中はビッグバンだ。にんにくの香りとカレーの香りが口の中一杯に広がり、生にんにくの辛味が食欲を刺激する。カレーはマイルドで、ほんのり甘みがあり、正体不明の旨味が舌を包み込む。ゴロリとした牛肉は口に含むとほろほろと崩れカレーに食感のアクセントを加える。
 最高だった。本当に最高のカレーだった。

 どうだい? 旨そうだろ? 食べてみたくなっただろ? 機会があれば君も食べに行くといい。JR品川駅、京浜東北線ホーム田町側の立ち食いそば屋だ。
 まぁ、ガーリックライスカレーも、いつの間にかメニューから消えちゃったんだけどね。
 ん? 生殺し? ハハッ。すまないすまない。よし、次にあった時は、そうだな、牛丼の話をしてあげようじゃないか。しかし、過度な期待は持たないでくれよ? また一杯食わされるかもしれないよ。牛丼だけに。

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