親子探偵ちゃんの消失

小林某

【前回までのあらすじ】
 たび重なる怪人との戦いにひへいした親子探偵は、けむりのようにあらわれた、怪盗黒白鳥(かいとうこくはくちょう)を名のる黒い鉄仮面の少年に、モーレツな一げきをおみまいされて、ひんしの重しょうをおってしまいました。名医高瀬源平の医じゅつによって命はとりとめたものの、いらい親子探偵のたいどや行動に、へんなところが見られるようになりました。ジュニアはいかにも小学生らしい、ヤンチャぼうずになって、夏休みということもあり、毎日あそんでばかりですし、神宮寺は、ゆくえ知れずになってしまいました。さらにふかかいなのは、だれもそのことに気づいていないということです。だれもそれをおかしく思わないのです。気づいたのは、ジュニアの一番の親友である、少年刑事の都村ジローくんただひとりでした。

『なぞの通信(つうしん)』
 クラス一のびぼう浅草さんをさそい、市民プールにやってきたジュニアです。水泳帽をはすにかぶって粋(いき)にきめてはいますが、ビート板小わきにかけまわっています。こうして見ていますと、かれが稀代(きだい)の天才であることなど、まるでべつの世界のことだったかのようです。いぜんのかれならば「プールサイドは走ってはならぬ」と一かつしていたはずです。
 これでは天才のスペックを、もてあましすぎます。びゅんびゅん走るスーパーカーに、ふけばとぶようなペーパードライバーが、のっているようなものです。
 はじめのうちこそ、なあにちょうどいいお休みではないかと、のんきにかまえていたジローくんですが、このちょうしではかえって身体までやられてしまうのではないかと、心ぱいになってきました。
 じじつ浅草さんとのY談のさ中にも、そのむじゃきな横顔に、ときおりお日さまが雲にかくれるように、うつろなかげがよぎるのを、ジローくんは見のがしませんでした。それはだいじなものを落っことしてしまったような気がしているけれど、それがなんなのかサッパリわからない、というときのような、ふあんなことがふあんだとでもいうような、きょうはくしんけいしょう的面もちです。
 ふいに、うで時計がピカピカ光りだしました。これはウーティス博士の発明品ですが、OEMによって、一ぱん的會社のはん売している通信きです。ちまたに流通している商品ですから、きのう面や安全面など、ジュニア用にカスタマイズされた探偵ひみつ道具にはおよぶべくもありませんが、こうしてちゃんと役目をはたしているのですから、なかなかすぐれものといっていいじゃありませんか。
「はいこちら都村。ぼくはふだんは非通知はとらないのだが、いまはわらにもすがりたい気もちでね。ご用はなにかな」
 かつてのジュニアほどではないにせよ、ジローくんもまだ小学生なのに、りっぱなうけこたえをするものです。お相手も少年の声ですが、いかにもひとすじなわにはいかなさそうな、すごみがあります。
「都村だって? ああ、少年刑事とかいうのかい。まあきみでもいい、ちょっくら用事があるのだが」
「ようけんに入るまえに、まずは名まえくらいいうのがすじだろう。なあ名なしくん、きみはどうやら礼儀というものを、知らないようじゃないか」
 すると相手も、少しは気をひきしめたようです。
「仕事がら、どうもせっかちでいけねえ。ぼくは岡田捨己(すてお)というものだが、ジュニアくんのけんで重ようなはなしがある」
「その名は知っているぞ、帝都新聞のかい犬だろう。こんなときをねらってかぎまわるなんて、もはやジャーナリズムには、正義もへったくれもないようだ。がたおちの部数をかせぐためには、少年ひとりつぶそうがかまやしないってわけだ」
「ずいぶんごあいさつじゃないか。記者というのはね、じゅんすいに真実を伝えることが使命だ。じゅんすいに正義も悪も、あるまいて」
「いいかげんにしたがいい。こっちは新聞屋の社説なんて、聞くつもりもないよ」
「どうもおたがい先走りすぎるな。いまはぼくは帝都新聞の記者としてではなくて、友人のひとりとして、親子探偵ふっかつについて有えきな情報をてい供しようというのだ」
 ふっかつの二文字を聞いたとたん、ジローくんののうりに、じょうねつの主題歌(アンセム)がなりひびきました。
「きみは親子探偵を、知っているのか!」
「まてまて、かれらが親子の探偵だということは、ぼくが個人的に知っているというだけで、記事にしたことはない。そんなことをしたら、ほされちまう」
「そうではなくて、いまはみんなが親子探偵を、忘れてしまったんだ。きみは親子探偵を、おぼえているのか」
「は、は、は。さい強の親子の探偵だぜ、忘れようったって、忘れられるものか」
「げんにみんなが忘れているということすら、忘れているのだ! 政府のえらいさんも、ウーティス博士も。だんだんおかしいのは、ぼくのほうなのじゃないかって……」
「はなしっていうのは、ズバリそのことさ。みんなが親子探偵を忘れてしまっているのは、まわりのようすを見ていてわかったよ。そこでぼくは、どく自に調査をはじめた。そこでわかったのは、これは怪盗黒白鳥の、おそるべき計画だったということだ」
「もしや神宮寺先生の失そうにも、関係があるのかな?」
「さすがのみこみが早いや。いいかい、よくおぼえておくんだ。神宮寺又一郎は名探偵であるまえに、ひとりの父親だ。父親は、いつもわが子を見まもっているものだ。かれは、ジュニアのすぐそばにいる」
 まさか! とジローくんはジュニアのほうをふりむきましたが、そこにはせん水するふりをして女の子たちのお尻をながめているC調男子が、いるばかりです。
「そうじゃないんだ。神宮寺は、愛する息子から忘れられてしまったことで、見えなくなっているのだ。ジュニアが父親を思いださないかぎり、だれにも見ることはできないし、ふれることもできない。でも、たしかにそばにいる」
「つまり、ジュニアの記憶さえもとどおりになれば、すべてまるくおさまるというわけだな。カタルシスがまっていると、思っていいのだな」
「それがもたらす効果までは、わからないが……とにかくすべきことは教えられる。時間がないから、いちどきりしかいわないよ。六本木ヘルズに、もぐりの指圧師がいるんだ。そいつならジュニアの記憶を、戻すことができる」
「なんだって! きゃつめ、泥棒のくせに、ヘルズ族なのか」
「しこたまもうけたんだろうね。親子探偵は、いまやだれからも忘れさられてしまった。記憶をもどせるものさえおさえてしまえば、あとは財宝を盗みほうだいというわけさ」
「子どものくせにぬけめない、おそろしいやつだ。しかしたかだか指圧師ふぜいに、どうやったら記憶をとりもどすなんてげいとうができるのだろう。想像もつかない」
「なにせ指圧師だ、記憶をとりもどすには、記憶をつかさどる……うむ、なんてこった、秘密をにぎったものだから、黒白鳥の手のものが血まなこになって、ぼくをおっているのだ。まったくジャーナリズムも、らくじゃない。とにかくわかったね、指圧師をつかまえれば記憶はもとにもどる。そうしたら黒白鳥なんてこすい泥棒は、ふっかつの親子探偵によって、手下ともどもそっこくブタバコ入りだろうよ。そしたらぼくも、疲れなくていいな」
「いきなりのことでめんくらっていたとはいえ、非礼をわびるとともに、お礼をいわせてくれ。きみにはあらためて、警察からも正式のかんしゃ状を、おくらせてもらう」
「そんなのはいらない。見かえりは、そうだな、親子探偵のみっ着一日取材をおねがいしたいな。きみからジュニアを、説得しておいてくれ。さあザコども、ぼくについてこれるものなら、ついてくるがいい……」
 まったく彼だって、じゅうぶんぬかりない男です。ジローくんはすっかり感心してしまって、しんけんに帝都新聞の定期購読(ていきこうどく)を考えたほどです。

 さて、おもいがけない助っ人のとうじょうによって、事件はいまやふううん急をつげています。しかしほんとうに、指圧師なぞがどうやって記憶をもとにもどしたりできるのでしょう? そのなぞは、いずれとけましょう。いまはもう、こちらも時間がなくなってしまいましたから、ひとまずのおわかれです。わたくしといたしましても、わくわくして、次回がまちどおしくてしかたありません。

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