インスタント神様

ナンデモ・アール・ト・オモウナー

 これ? これはインスタント神様。
 蓋を取って、お湯を入れる。お水でもオーケー。
 お湯なら五分、水なら六十分。蓋を乗せて待つ。
 時間たったら、蓋、取る。神様できてる。
 一つならこの値段。お得な五個セット、いまならこの値段。
 さらに一つサービス付く。五つの味が楽しめる。
 セット買うか?
 まいどあり。


『賞味期限切れ』

 リフォームのため、家の片付けをしていると、神棚の奥から怪しい壺がでてきた。「ああ、そういえば母さんが大事にしてたな……」古めかしいラベルに「インスタント神様」と書いてある。十年前に他界した母がまだ元気だった頃、「変なもの売ってた」と言いながら持って帰ってきたのがそれだった。父と私は「あんたも好きねえ」と苦笑いし、特に興味も持たなかった。まさか神棚に祀ってあるとは思わなかった。
 壺は六つあり、二つはまだ封がされている。「四つも使ったのかよ……」と、母の物好きに呆れつつも、変なものが好きで、明るく、よく笑う、母の姿を思い出ししんみりした気持ちになる。
 父に伝えると「折角だから使ってみるか」と言い、お湯を沸かし始めた。封がされている壺には「カレー味」と「お楽しみ味」と書いてある。どっちも、微妙に遠慮したい感じだ。インスタント神様なのに「味」が書いてあるってどういうことだろう。実は食品なのだろうか。
 湯が湧いたので、両方封をとる。壺の中は薄暗くてよくわからないが、なんだか木片のようなものと「かやく」と書かれた小袋がはいっていた。壺の蓋(説明書にもなっていた)を読むとかやくを入れてから湯を注げとある。説明書には従う派の私は、その通りにする。ちなみに蓋には「決して口に入れるな」とも書いてあった。やはり食品ではなさそうだ。
 湯を注ぎ、蓋をして、五分待つ。
 待つ時間がもったいないので、その間に神棚の整理をすすめておこう。……そして、神棚の整理をしているうちに壺のことはすっかり忘れてしまっていた。ちなみに父は、もっと早い段階(具体的にはヤカンを火にかけた直後)にもろもろのことを忘れてどこかに出かけてしまっていた。片付けを手伝え、父よ。
 そんなこんなで、お湯を注いでから二時間くらいが経ってからだろうか。壺の存在を思い出し、慌てて蓋を取る。カレー味の方からは、確かに仄かなスパイスの香りが、お楽しみ味の方からはなんだか紫色の煙が出ているようにみえる。これ、吸っちゃいけないやつでは……。
 しかし、壺の中には何も無く、やっぱり母はなんかどうでもいいものを掴まされちゃってたのかなぁと思った。あの木片とかかやくとかはどこに消えたんだろう……と思いながら、ふと蓋に目をやって「あ、賞味期限が切れてる……」ということに気づいた。まぁ、賞味期限が切れていたらしかたないかなぁ。口に入れるなって書いてあるのに賞味期限とはこれいかに、とも思ったけど、まぁいいか。特に気にはしない。
 さて、この壺達どうしようか。仮にも「神様」と書かれているので、捨てるのには抵抗がある。お焚き上げに持っていくのが筋なのだろうけれども、なんだか怪しげな壺六つ。「ゴミを捨てるな!」と怒られそうな気もする。ちょっと考えたあと、やっぱりいいアイディアが思い浮かばなかったので、新聞紙をガサガサってまるめて壺の中に詰め、段ボールの中に片付けた。
 一応は母の形見だから大切に取っておこう。最悪、私が死んだ時骨壷にでも使えばちょうどいいだろう。仏様っていうしね。あれ? 神様と仏様って違うんだっけ? まぁ、いいか。


『海』

 大家さんから妙な壺をもらった。インスタント神様って書いてある。食べ物じゃないらしい。だったらなんだろう……。お湯を入れて三分まてばいいらしい。水なら六十分……。お湯をわかすのが面倒だったので、水を入れて流しに置いておく。ゲームでもしてまつことにした。
 ……全俺が泣いた。ネットで「やばい」とは聞いていたけれども、これは反則。こんなガン泣きしたゲームは久しぶりだった。どれくらい久しぶりかって、観鈴ちんうぐぅ……と、ゲームの余韻に浸っているときに、ふと、水を入れた壺の存在を思い出した。すでにたっぷり四時間は経っている。しまったなぁ、と思いつつ立ち上がり、流しをみると、壺の中から顔をのぞかせる猫と目があった。
「にゃぁ」などと鳴き、異常なまでに保護欲を掻き立てるご尊顔は、ウルトラプリティだ。「きみはどこからはいってきたのかにゃ〜?」などと猫なで声を出しつつ、壺に近づき、猫の両脇に手をやり、壺から取り出そうとする。そこで異変に気付く。持ち上げた猫の胴体が異様に長いように感じる。そっと、壺の中に猫を戻し、壺を流しから床に下ろし、もういちど猫を持ち上げた。にょーんと胴はどんどん伸びる。「やぁ、君は僕と同じくらい身長あるんだな」などといいながら、そっと壺の中に猫をもどした。
 さて、どうしよう。あの壺がおかしいのか、あの猫がおかしいのか。そもそも、あの壺の中にあんなに胴の長い猫がはいるはずはない。もしかして、猫が神様? 水入れて長時間放置したから伸びちゃった!? カップ麺みたいに! はぁ、どうしよう。溜息をつきつつも、手元は忙しく動き続けている。なぜかというと、猫じゃらしを振って、胴の長い猫と遊んでいるからだ。
 しばらく観察して(遊んで?)わかったこと。猫は自分から壺の外に胴を伸ばすことはできない。ニボシが好き。かわいい。ウルトラプリティ。とりあえず、ツボトラと名付けた。壺にはいったキジトラ柄だからツボトラだ。「ツボトラくん、君は何者なんだね」壺から引っ張り出したり、戻したり、うにょーんうにょーんしているうちになんだか眠くなってきて、眠ってしまった。
 妙な蒸し暑さに目が覚めると、真っ暗だった。というか、なんだかもふもふしている。身動きが取れない。手元を見ると、どうやら寝返りをうったときに壺を倒してしまったようだ。壺の口からツボトラの胴体が流れだして四畳半を埋め尽くしている。というか、なんかミシミシにゃーにゃー言ってる。壺から際限なく溢れだした胴体が部屋の容量を超えてツボトラを圧迫しているのだ。「くっ、いま助けてやるぞ」とは言ったものの、身動きが取れず壺を立てて流出を防ぐことすら困難だ。にゃーにゃーという苦しげな声が大きくなると同時にミシミシという嫌な音も大きくなっていき……。がしゃーんと大きな音がして窓が割れ、ツボトラが部屋から溢れだした。その瞬間、体がふと動くようになり、即座にツボを立てた。
 その瞬間、ツボの中から後ろ足と二股の尻尾がスルリと出ていき、あの無限に続くかと思われた胴体の終わりが唐突に現れた。部屋の中で呆然とする僕の耳ににゃーんと言う鳴き声が聞こえた。まわりを見回すと、窓ガラスは割れてないし、猫の毛一つ落ちてない。手元に残ったツボを覗くとニボシが三つはいっていた。

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