妖壺

原 迦羅

YouTubeにアクセスしたはずが、そこはYouTuboだった。
何を言ってるのかわからねーと思うが、俺にもよく分からない。
分からないが、目の前の箱に映っているトップ画面の「あなたへのおすすめ」には動画ではなく、壺が並んでいる。
こんなふざけたサイトが存在していることにも驚くが、いつも使用しているブックマークから何故間違ったサイトへ行ってしまうのか。何度も試したが結果は同じだったし、検索結果から飛んでも同じだった。
YouTube自体が乗っ取られているのだろうか? と思ったが、2chでもツイッターでも話題は出ていない。もし本当にそんなことになっていたら、とっくにニュースになっているだろう。
何故かは分からないが、これは俺の環境だけに起きている現象なのだ。多分。
いつものように面白動画探しをして暇つぶしをしたかったんだが、サイト自体が面白になってしまっている。仕方ないので、YouTuboをしばらく眺める。話のネタになるかもしれないし。そもそも信じてもらえないかもしれないが。
見ると、いろんな色や形の壺が並んでいた。大きさもまちまち、細く長いものもあれば、ほぼ円?と思えるような姿のものもあった。
眺めているうち、ふと、ひとつの壺に目が惹かれた。
ぱっと見では、すらりとした細さが特徴的だが、すべての曲線にやわらかさがある。淡い薄紅色で、釉薬のヒビが全体に細かく走っているが、そのヒビが逆に文様のような味わいを生み出している。
触れたら、どんな肌触りなのだろう。ひんやりと硬く冷たいのか、土の質感を残すような温かさがあるのか。
俺自身には骨董趣味は全くなく、壺には一切興味はないし、それに準ずるような見識や教養もない。
なのに、その壺にだけはどこか惹かれた。 YouTubeと違い、YouTuboには壺画像の隣に金額と「カートに入れる」ボタンがあった。
思い返せば、どうかしていた。値段が大した金額ではなかったのもあって、ついポチった。昨日パチンコで勝ってもいたし、若干太っ腹になっていたかもしれない。
そもそも壺って、具体的な用途はなんだろう? もともとは入れ物なのだろうが、今やその用途で購入はしないだろう。鑑賞目的が主流なのだろうか。
でも俺は、何より触れてみたかった。それだけのために金を出すのもおかしいが、感覚を味わってみたかった。調べてみたがYouTuboには実店舗がないようなので、買う以外には手段がなかった。

配達予定の指定時間に俺の家に来たのは、配達員の制服ではなく、小洒落た服を着た女だった。
が、こう言い放った。
「お届けものでーす」
……デリヘルは頼んでないはずだが。
「部屋を間違われてるんじゃないですか?」
「いえ、こちらで間違いありません」
女は俺の住所氏名電話番号を何も見ずにすらすらと述べてみせた。
「間違ってませんよね?」
女が一歩、玄関へ足を踏み入れる。
と同時に、ヒールのバランスを崩し、ふらついて俺へ倒れてきた。
「あっ」
俺は慌てて女の体を支える。
「ありがとうございます」
と言いながら、女は体勢を整えもせず、逆に俺の背中に手を回してきて、更にもたれかかってくる。
「い、いや、それだと倒れ……」
言い終わる前に、支えきれずに下敷きになった俺と女が倒れた。
「大丈夫ですか?」
全体重をかけてきて、よくしれっと言えるな。
「いや、それより手を貸しますから起きてください」
女はむしろきょとんとして聞いてきた。
「ここじゃなくてベッドの方がいいですか?」
「は?」
何言ってんだ、この女?
俺が知らない間に、誰かがデリヘルのサプライズプレゼントでも頼んでくれたんだろうか? しかし、そんな気の利く奴は俺の周りにはいない。はずだ。
上に乗っかっている女をはがしながら、
「あの、やっぱり勘違いだと思うんですけど。俺は頼んでな」
その先は口をふさがれて言えなかった。女のやわらかくあたたかい唇に、俺の言いかけた言葉ごと食われていた。

理性も食われていたかもしれない。
それを機に俺は正体を失い、女をそのまま抱きかかえてベッドに連れ込み、ひたすらまさぐっていた。
どちらも何も話さないまま、俺は女の小洒落た服を荒っぽくはがして、そのさらけ出した肌に一瞬、息を呑んだ。
白い肌にうすく青く静脈が透けて見える。それが細い体をより華奢に見せて、俺の衝動を突き動かした。
むしゃぶりつくように愛撫を重ねると、次第に肌が上気して色を帯びていく。
高揚すればするほど、唇に、指に、肌への吸いつきが増していく。
こんな肌は初めてだった。
この女はなんなのか。
この女を俺は何も知らなすぎる。
女は愛撫をすべて咥えこみ、歓喜の嬌声をあげている。
「あんた、誰なんだ」
順番が狂っている。思いながらも俺は女に聞いた。
「あなたは私を求めたでしょう?」
荒い息の下から、女が答えた。さも当然のことと言うように。
「デリヘルは頼んでない」
「そういうものじゃありません」
言うなり、俺のものをつかんだ。俺が動揺すると、自分の股間にあてがいながら、
「すぐに分かります」
咥えこむと、もう喘ぎで言葉にならないようだった。
俺はというと、気を失いそうなのを必死でこらえていた。何だこれは。肌のように、これも今まで経験したことのない吸いつきと締めつけを俺に与えてくる。
ここまでくると、いい女とか、名器などと呼べる限度を越えている。むしろ俺はこの女に恐怖を覚えてきていた。
自分のものが、いや、それ以上に自分の体、意識、そのものを食われる恐怖。
「やめろ!」
慌てて抜こうとしたが、食いこみがきつくて抜けない。
「やめてくれ!」
女を見ると、未だに愉悦の喘ぎで体を震わせている。その肌を見て、俺は驚愕した。
享楽で薄紅色に染まった肌に、細い赤い血管が無数に浮いている。その姿に、俺は確かに見覚えがあった。
あのとき、何故か衝動的に触れたいと思った、あの肌。あの姿形。
「分かったでしょう?」
女は、いや、それは女なのか。悟った俺に畳みかけるように言った。
「あなたがわたしを選んだのだから。あなたの……を」
声がもうあまりよく聞こえなかった。意識をとどめ続けるには、あまりに締めつけが強すぎる。いや、どんどん強くなっていくようだった。
むしろ女に食われ、吸われていくような感覚だった。
このままでは女の中に引きずりこまれる。
危機感と恐怖はつのるものの、意識はもう途切れ途切れだった。
「俺は……どうなるんだ」
それに答える声はあったのかどうか。
そこで俺の意識は途絶えた。

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