ガーラガラ ――メリー・クリスマス♪

のねこ

 ガーラガラ、ガーラガラ ポットン、トン、トン……
「メリー・クリスマス! 五等、当たりました!」
 通りへ響き渡る明るい声と共に、おいらの前からポケットティッシュが三つ、さっと掴み出される。
「ハズレ無しったって、これだもんなあ!」
 渡された男の一人が、小声で鼻白む。隣の男も、呟く。
「四等が箱チィッシュ五つ組なんてのも、微妙だし……」
 更にその横の男も、低く嘯く。
「それに、もう出てる一等なんて、どうせ、サクラだろ?」
 実はおいらも、密かにそう思っている。だってなぁ、「一等旅行券」当選者として貼り出されているのは、お宮の権禰宜――御年九十六歳、足腰不如意の御老体の名なんだぜ。
 で以て三等は、昭和の時代ならまだしも、今の子供の好みでは、疑問符が多数付くこと間違い無しの「菓子の詰め合わせ袋」。名前は「若草婦人会」だが、今現在は枯草年齢としか思えない会員達が選定しているのだから、致し方無いのかもしれないけどなぁ!
 まっ、商店街会長をしている電気屋の親父が、思い切って「ロボット掃除機」を出している二等だけは、「良し」とすべきかなぁ?
 とは言え、そもそも、御稲荷神社の参道商店街で「Xmasセール福引」なんてのは、邪道じゃねぇ?「正月の縁起福引」ならまだしもなぁ。おいらは、疑問を呈せざるを得ない。それが、この夏オープンした駅前大型ショッピングモールのイベントに対抗してだったとしても。それに、結局、集客に関しては、何の効果も出てないしなぁ!

 五等ばかりが出る福引に、寒風が身に染みて来る。
 おいらは背中を丸め、腕を縮め、両手先を隠し込む。

 暫し福引客が途絶えた後、男女二人に少年一人が躊躇い勝ちに近付いて来た。どうも、家族のようだ。少年は、小学校の三、四年生くらいに見える。
 母親であろう女が、福引券を差し出しながら、
「敏、引く?」
「うん」
 少年が手を伸ばし、回す。
 ガーラガラ ポットン
「五等、当たりました!」
 通りへ響き渡る明るい声と共に、おいらの前へと手が伸びて来た。
「あっ! 無い……」
 アルバイトの女子学生が、焦ったように隣に立つ枯草年齢女の方へ視線を向ける。流石、亀の甲より年の功。年上女は慌てず騒がす、箱ティッシュ五つ組をさっと取り上げ、
「こちら、四等の商品ですが、これを」と、満面の営業スマイルで差し出す。
「ウッソー! まだ一つ入ってるよ!」
 少年は爪先立ち、ぐいっと両手を伸ばし、おいらの両腕をむんずと掴み、ばっと引いた。
「えっ? 猫っ!」
「まあ! 誰が入れたの? 景品箱の中に子猫なんて!」
「ちょっと小さいけど、成猫? 自分で入ったのかも……」
「何時の間に! 何にしても、兎に角」
 年上女はティッシュ箱に加え、三等の菓子袋も手にして、
「大変、不手際を致しまして、申し訳ございませんでした。どうか、こちらも」と、更なる営業スマイルを見せる。
「ヤダ! 五等が当たったんだもん! これだもん!」
 少年はおいらを抱えたまま、走り出す。が、抱き方が下手過ぎ! 墜落は御免被る。即座においらはぐいと身を伸ばし、ジャンパーの襟首隙間から中へと潜り込む。
 少年は一瞬、ぶるっと身振いするも、ジャンパーの前裾をしっかり押さえ、走りを続行した。
 なかなかの根性、痛み入る。おいらはにんまりと笑い、ジャンパー内で態勢を整える。
「済みません」
 母親と父親はくじ引き所の面々へ向け、あたふたと何度も頭を下げ、
「敏! 待ちなさい!」と、少年の後を追った。

 直ぐに追い付いた父親は、少年の前へと回り込み、
「敏。その猫をどうするつもりなんだ?」
「僕、猫飼いたい! とうさんだって、子供の時、猫飼ってたんでしょ! おばあちゃん、言ってたもん」
「そりゃまあ、子供の時、家には猫、居たけどさあ……」
 父親の困り声。おいらはジャンパーの首元から、そーっと顔を出す。
「白黒の八割れ猫でしょ。おばあちゃん言ってた。可愛いくて、とうさんと仲良しだったって。とうさん、この猫も、白黒八割れだよ!」
「いや、この猫の顔は、八割れじゃない。七三別れで、顔半分が斜め黒……だぞ」
 父親は、しげしげとおいらの顔を見詰める。
「とうさんだって、今は、七三分けにしてるでしょ?」
 口を尖らせる少年。おいらは即座に、父親の顔へ向け、
「にゃおぉぉぉぉぉん」と、取って置きの嬌声系鳴き声を発した。
「ほら! この猫だって、そうだって言ってるよ!」
 少年が得意げに言う。その横で、母親がころころとした笑い声を上げながら、
「確かにそうね! 顔半分は、お父さんの日焼け顔で、額は、後退しかかったお父さんの額と一緒かもよ!」
「おいおい! かあさん! それは無いだろう!」
 抗議の声を上げる父親に、
「あら! でも、それも素敵だと思ってるのに? それから、貴方もこの猫も、どちらも瞳がキラキラしてるから好きよ」と、母親は会心の笑みで言う。
「この猫、当たったんだもん。僕が当てたんだもん。僕、飼う。ねぇ! 飼いたい!」
 少年は、はち切れんばかりの笑顔で両親を見上げる。
「貴方。敏がこれだけ喜んでいるんだから、最高の当たりよね! 飼いましょう」
「そうだな。此奴、結構、人懐っこそうだし、御袋も猫好きだから、飼っても大丈夫だろうな。」
「そうと決まれば、猫用品一式を買いにショッピングモール内のペットショップに行きましょう! 幾らお母さんから、『あそこへは買い物に行くな』って言われたって、この辺りには、あそこ以外、ペットショップなんて無いんですもの」
「だな。理由が有れば、御袋だって反対はしないだろう」
 父親は頷いた。
「それに、俺だって、地の果ての田舎みたいな所から、久々に日本に帰って来たんだ。少しは華やいだ街へも行きたいよ! 『門前町商店街で十分!』なんて言ってる御袋だって、その実、一度はショッピングモールも覗いて見たいんじゃないか? まっ、何にしても、この猫は君にとっても、素敵な当たりだった訳だ。これからは、この猫の事に託けて、ショッピングモールへ買い物に行けるようになるだろうから」
 父親は母親へ向け、ウインクをしつつ、
「じゃ、これから一旦家へ帰って、おばあちゃんも誘って、ショッピングモールへ行こう! Xmasイベントもやってるぞ!」と、少年の肩をぽんと叩いた。
 おいらは右手を襟口からぐぐっと出し、
「にゃあぉ」と満面の笑みと共に、招き猫手をする。
「この猫、『メリー・クリスマス!』って手を上げてるよ!お利口さんだね」
 少年は嬉しそうな笑顔で以て、おいらの首筋を撫でる。おいらは、ごろごろと喉を鳴らしながら、
「来年も――いやいや、これからずっと、御家族皆へ、福を招き続けますからにゃぁ!」と、少年の頬を舐めた。

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