夢の国の野球

美月真雲

※この作品は実在のアレとかコレとかとは一切関係ありません。

-----------------------------------
※某日の記事※
 二〇××年二月、東京ニズデーリゾートとウニバーサル・スタジオ・ジャパンの共催で、野球の親善試合が行われる運びとなった。
 長年、ライバルとして鎬を削っている両テーマパークが手を組んでイベントを行うのは極めて異例。しかも、その内容がショーやコンサートではなくスポーツの試合であるという点が、多くのファンを驚かせた。
 一部報道によると、この試合はそもそも興業として企画されたものではなく、両パークのキャラクター間の諍いに端を発するものであるらしい。もとから不仲で、何かにつけて争いの絶えない両者だったが、ある日の口論がスポーツの話題に及び、「売上や知名度だけではなく、スポーツでも俺たちのほうが強い」「いやいや、お前らごときに負けるわけねーし」というお馴染みの意地の張り合いに発展。これを聞きつけた両パークの経営陣が悪ノリし、親善試合の場を設けた。
 ホーム・アンド・アウェー方式で、一試合目は二月十日に東京(千葉)、移動日を挟み、二試合目は二月十二日に大阪で行われる。チケットの売上は両日ともに好調。ファンならずとも、勝負の結果に注目だ。

-----------------------------------
※別の某日の記事※
 一試合目の先発メンバーが発表された。
 ニズデーの先発投手ロビーは変化球に定評がある技巧派で、七つの球種を自在に操り打者を翻弄する。打撃では三番キツミー、四番ブウサンに注目。俊足のキツミーが出塁し、強打者ブウサンの長打で得点を狙う盤石の打順だ。
 対するウニバーサルの先発は茶利ブラウン。とりたてて特徴のない平凡な投手で、この抜擢は疑問だ。試合序盤で交代する予定の、いわゆる「偵察要員」かもしれない。三番センターのスッパイダーマンは、手から糸を伸ばして広範囲の打球を捕球する名手。ブウサンのホームランを阻止するファインプレーに期待したい。

-----------------------------------
※試合当日の速報記事※
 一回表、ウニバーサルの攻撃。開始早々に二ズデーの右翼手モニが干上がってしまうというまさかのアクシデント。急遽選手交代する波乱の幕開けとなった。控え選手のズバ・レフトイヤーが七番ライトに入った。
 ニズデーの先発投手ロビーは好調。切れのいい変化球でウニバーサルの打線を三者凡退に打ちとった。さすがのスッパイダーマンも、消える魔球には手も糸も出なかった。
 一回裏、ニズデーの攻撃。ウニバーサルの左翼手ズョージが干上がってしまうというまさかのアクシデント。控え選手のマーマイーニオイーが七番レフトに入った。
 ニズデーの一番キオピノは茶利ブラウンの初球を叩き、二塁打を放った。無死二塁。
 ウニバーサルは早くも投手交代。茶利ブラウンに替わって超理ブラウンがマウンドに上がった。事前情報が全くない選手で、観客はどよめいた。顔は茶利ブラウンに似ているが、肉体は筋骨隆々。身長二メートルを超える巨漢だ。
 超理ブラウンは剛速球で二番ドルナドを打ちとるが、その後は制球が乱れ、三番キツミー、四番ブウサンに死球を与えてしまい一死満塁。ニズデーのチャンスとなるが、五番ボンダが併殺に倒れ無得点に終わった。

-----------------------------------
 死球を受けたキツミーの背中の痛みは、なかなか引かなかった。超理ブラウンの球威は並みではなかった。だが、泣き言を言ってはいられない。打者として有力視されている自分やブウサンが危険な球で攻められるのは、最初からわかっていたことだ。避けられなかった自分が悪い。
 四回裏の先頭打者として打席に入ったキツミー。ウニバーサルの投手は替わらず超理ブラウン。二回、三回と六者連続三振に抑える完璧なピッチングを見せていた。
 キツミーへの初球は内角に大きく逸れたボール。身をよじって回避した。相手は制球が定まらないといったふりをしているが、明らかに当てにきている。キツミーとブウサンには死球を与え、他の打者でアウトをとる算段なのだ。
 二球目、三球目も同じようなボールを回避し、四球目もかわす準備をしていたが、一転、ストライクに投げ込まれて手が出なかった。なるほど、そういう作戦かと思い、打ちにいく心構えに切り替えたら五球目に死球を喰らった。厚い筋肉がある太股で受けたので致命的ではないが、走る動作に支障が出るかもしれない。
 その後、四番ブウサンも死球で無死一、二塁となったが、後続が打ちとられて、この回も無得点だった。

 四回まで無失点の好投を続けていたロビーだったが、五回表、四番打者テキィにホームランを喫し先制された。
 一点ビハインドで迎えた六回裏。一死走者なしでキツミーの打順。これ以上ダメージを負うわけにはいかない。危険な球を強引に打ちにいくと決めた。無理な体勢になるが、超理ブラウンの球に目が慣れてきたし、ウニバーサルの守備陣の穴も見つけていた。ショートのハポー・リッターがスニッチを追いかけていなくなっているので、そこに打った。打球は弱かったがレフト前ヒットとなった。
 そして、キツミーはさらなる勝負に出た。打席に入る前に予め四番ブウサンと相談したことだが、ブウサンの長打で得点するという当初のプランは困難になっている。ここはキツミーの走塁で得点を狙う。初球で二塁に盗塁、二球目で三盗も決めた。超理ブラウンは相変わらず死球狙いの投球だが、ブウサンが懸命に回避してくれた。
 直後の三球目をブウサンがスクイズ。体に向かってくる難しい球を見事に転がし、キツミーが本塁に滑り込んで生還。同点としたが、代償があった。キツミーの背中と太股の痛みが増した。

 七回以降、ウニバーサルの打者はダメージのあるキツミーの守備位置を狙って打ち始めた。キツミーは必死に走って打球に追いつくが、いつ限界を迎えるかわからない。「大丈夫?」とレフトのもんくまが心配そうに声をかけてきたので、気丈に振る舞って応じる。自分以外にショートを守れる選手はいない。大丈夫じゃないとしても退けない。
 同点のまま九回裏に突入し、先頭打者はキツミー。この回に得点すればサヨナラ勝ちとなるが、キツミーの意識は朦朧としていた。痛みのせいか、体が熱い。
 ウニバーサルは球威の落ちてきた超理ブラウンを降板させ、射吏ブラウンをマウンドに上げた。体力は充分で、投球練習が力感に溢れている。キツミーの状態を知られている以上、もう死球攻めもしてこないだろう。正面から勝負して打たなくてはならないが、今のキツミーには難題だ。戦意は失っていないものの、凡退を覚悟した。
 その時、後ろから声をかけられた。
「ベンチで休んでてください。俺が代打でいきますよ」
 見知らぬキャラクターが、キツミーのそばに立っていた。誰だろうか。痛みで幻覚でも見ているのだろうか。瞬きをして目を凝らしていると、彼は言った。
「あっ、この姿でお会いするのは初めてでしたか、師匠」
 その言葉を聞いて「何だ、お前か」と得心がいった。半年前までキツミーのお付きをしていた青年だ。
「久しぶりだな。研修は終わったのか?」
「今日が最終日でした。研修会場から飛んできたんです」
「ははっ。そして初舞台がこの試合か」
 半年前の彼にはとても任せられない場面だが、青年は研修を経て肉体的にも精神的にも成長していた。よし、その度胸を買ってやろう。行ってこい、とキツミーは青年の肩を叩き、審判に代打の旨を伝えてベンチに戻った。
 青年が打席に入る。構える。初球。盛大に空振りして尻餅。観客の笑いを誘う。青年もばつが悪そうに笑う。キツミーも苦笑したが、なぜだか安心して見ていられる。二球目。強振。青年のバットが球を捉えた。涼やかな快音。歓声。打球はライト方向へ高々と上がった。ファウルになるかと思ったが、ポールに当たりホームランとなった。
「あいつ、やるじゃねーか」
 青年は大歓声に応えながらベースを回る。新たなヒーローを手荒く祝福するために、キツミーはベンチを立つ。

感想を投稿する
ログインする※ログインしなくてもコメントできます!
コメントするときにログインしていると、マイページから自分が付けたコメントの一覧を閲覧することができます。

名前は省略可。省略した場合は「匿名希望」になります。

感想の投稿には利用規約への同意が必要です。