インスタント神様

ナンデモ・アール・ト・オモウナー

 これ? これはインスタント神様。
 蓋を取って、お湯を入れる。お水でもオーケー。
 お湯なら五分、水なら六十分。蓋を乗せて待つ。
 時間たったら、蓋、取る。神様できてる。
 一つならこの値段。お得な五個セットならサービス一つついてお買い得。
 アイヤー、でも、今、四個しか無いね。全部買うなら勉強するよ。
 全部買うか?
 まいどあり。

+ + + + + +

「ぱんぱかぱーん! おおあたり! おおあたりじゃ!」
 蓋を開けたら、ちょっとした紙吹雪と一緒に、なんだかちっこい、ぬいぐるみみたいな爺さんが出てきた。
 カップ麺の容器から上半身だけだして「おおあたり、おおあたり」と言いながら、扇子で紙吹雪を煽っている。綺麗な色の着物を着て、兎に角、なんだか、おめでたい感じのする爺さんだ。

 外出からの帰り道、ふらりと立ち寄った骨董市で、怪しげな、彫りの深い男がカップ麺を売っていた。あまりの怪しさに「どんな古いカップ麺売ってんだよ……」と思って近寄ってみたら「インスタント神様」だと言われた。インスタント神様という怪しいワードに興味を惹かれ、さらに随分安い値段で売られていた。コレくらいの値段なら痛くも痒くも無い。ゲラゲラ笑えて話のネタになればいいか。そう思って、売れ残っていた四個全部買った。

 そして、家に帰って説明書どおりにお湯をいれてみたら、おめでたい感じのちっちゃい爺さんが騒いでいるというのが現状だ。
「おおあたり! おおあたりー!」
「わかった、爺さん。ちょっと落ち着こう。爺さんがインスタント神様なのか?」
「いかにも。わしは福を呼び込む福の神じゃ」
「で、おおあたりすると何かいいことあるのか?」
「うむ。おおあたりの特典。あたりがでたのでもう一個作っていいぞ」
 うん。なるほど? あたりがでたらもう一個! なんかはアイスや駄菓子のオマケでよくみる。しかし、こいつはどうだ。ちょっと、何を言っているのか理解できない。
「もう一個作っていい?」
「そうじゃ。あたりもあたり、おおあたりだからな」
「……べつにあたりがでなくても、俺の意志でもう一個つくることも可能だよな?」
 そういうと、爺さんは目を大きく見開き、すごく悲しそうな顔をした。見る間に目にはうるうると涙が溢れ、ショックが隠しきれない様子だ。
「そ、そんなこと……そんなことしてしまうとは……なんという悲しき世界じゃ……」
「わかった。わかったから。ほら、涙を拭いて」
 俺は爺さんにティッシュを渡すと、爺さんは涙を拭い、使い終わったティッシュは容器の中に折りたたんで、丁寧にしまった。
「……で、の。おおあたりなんじゃが、もう一個作ってくれるか?」
「わかったよ。折角のおおあたりなんだ。作るよ、作る作る」
 そう言うと、爺さんの顔はぱーっと明るくなり、また「おおあたり、おおあたり」と言って紙吹雪をちらし始めた。
 電気ケトルに水を入れ、スイッチを入れる。最近の電気ケトルはあっという間にすぐに沸く。広告に偽りは無い。二つ目のカップの蓋を開け、爺さんの隣に置いて湯を注ぐ。爺さんは容器のふちから身を乗り出し、湯が注がれる様子を興味津々に見つめている。
 さぁて、そろそろ五分かな……と思った瞬間に、ぱんぱかぱーんというゴキゲンな効果音と共に、二つ目のカップ麺の蓋が盛大に開いた。派手な紙吹雪とともに、小さな爺さんが容器から上半身をだし、和傘の上で枡を器用に回している。
「おおあたりー! おおあたりー!」
「なんと! めでたい! おおあたりじゃ!」
 最初の爺さんは扇子でこれまた盛大に紙吹雪を中空に撒き散らし、二人の爺さんの「おおあたりー」という掛け声がシンクロし、響き渡る。なんというか、兎に角めでたい光景だ。
「おめでとうじゃ! おおあたりじゃ!」
「ささ、はよもう一個作るのじゃ」
 容器のフチをバンバン叩きながら次のカップにお湯を注ぐことを要求してくる。なるほど、次のあたりの特典ももう一個作れるというやつか。
「なぁ、神様たちよ。神様が次々と降臨してくれて、なんだかとてもめでたい気分であることは確かなんだが……。神様たちは、一体俺に何をしてくれるんだ?」
「まま、そう焦るな若者。我々神が二柱も降臨しておるのじゃ。焦らずとも良いことはある。ささ、疾くつぎの容器にお湯を注ぐがよかろう」
 短く溜息を「はぁ」と吐く。そして、次のカップ麺を爺さんたちの隣に置いて湯を注ぐ。多めに湯を用意しておいてよかった。五分待つ間、二人目の神様の、傘の上で物を回す芸を堪能する。傘を回す横で、一人目の神様がやんややんやと歓声を上げ、紙吹雪が舞う。観ているだけでなんだかおめでたい気持ちになる。
 そろそろ時間かな? と思ったら「にゃぁ」という声が聞こえてきた。
 見ると、容器のフチからひょこっと猫が一匹顔を出している。つぶらなひとみでこっちをじっと見つめ、もう一度「にゃぁ」と鳴いた。
「猫じゃ……。めんこいのぅ」
「猫じゃ……。かわいいのぅ」
 こいつも神様なのだろうか。首根っこを摘んでうにゅっ、と容器から取り出すと、にゅにゅにゅーっと胴がでてくる。胴がやたら長い。どこまでも胴体なんじゃないかと思うほどだ。神様じゃなくて、化け猫の類か? と思って見てみると、前足に何か巻物を持っている。なんだろう、と思い、それに手を触れるか触れぬかの瞬間、巻物がしゅるると解けて、中に書いてある文字が露にあった。
「お・お・あ・た・り。あたりじゃ! おおあたりじゃ!」
「これはめでたい! おおあたりじゃ!!」
「にゃぁ〜」
 最初の二人の神様はイェーイと言いながらハイタッチ(傘と扇子はいつの間にかなくなっていた)をしている。おおあたりの文字を見て、力の抜けた俺は手から猫の首根っこを離してしまったが、猫の長い胴体は元の容器にするすると収納されていった。
 猫は「にゃぁ」と鳴きながら容器のフチをバンバンと叩いている。あ、もう一個作れってことなのね。俺は、もう何も言わずに次のカップ麺に湯を注ぎ始めた。最後のカップ麺だ。
 爺さん二人の間に猫のカップを配置すると、爺さん達は「めんこいのぅ」「かわいいのぅ」と言いながら猫をなでなでしている。なんだかほっこりする風景だ。猫は猫で、目を細めて気持ちよさそうに「にゃぁ」などと鳴いている。そんな光景を見ていると、なんだかウトウトしてきて、気付いたら寝入ってしまった。

+ + + + + +

 ボンという音にハッとなり目が覚めた。テーブルの上を見渡すと、カップ麺の容器も、神様も猫も居なくなっていた。夢だったのか? と目をこすりこすりよく見ると、テーブルの上にいくらかのお札と小銭が置いてあった。数えてみると、インスタント神様を買った値段くらいの金額が置いてあった。
「あ、端数切り上げてある」
 十の位で切り上げられた金額で、何十円か得した形だ。まぁ、損はなかったし、おめでたいきもちになれたから、いいか。そんな事を考えながら、俺はもう一度眠りに付くことにした。

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