SPY&OPPAI~スパイは二度揉む~

越後屋鮭弁

「お早うフェルブス君。今回の君の使命は」
「それは世界を二分する可能性を持ったものだ」
「存在してはならない」
「潜入し、試作品を奪取する。あるいは」
「有能なエージェントをすでに送り込んでいる」
「彼なら日本のことを熟知している。性質に難ありだが」
「君、若しくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺さ
れても、当局は一切関知しないからそのつもりで」
「なお、この録音は自動的に消滅する」

Act.1「こけしの里」

 成田空港、国際線到着口付近。
手続きを済ませ、速やかに指定の場所へ。
 ビジネスマン、旅行者、サムライにゲイシャ。
平日でも空港内は、多種多様な人々で賑わっていた。私も
仕事でなければ。などと少し気持ちが揺らぐのは、壁に大
きく貼り出された紅葉美しいジャパニーズテンプルのポス
ターのせいだろうか。
 指定の場所に男は居た。
 風景に溶け込んでいるかのようにごく自然な佇まいだが
油断なく周囲を気にしている。
「お待たせしました」
 私から接触を試みる。男は少し微笑むと小さく呟いた。
「セ・シール」
そして、彼はこちらの反応を待っているようだ。まったく
合い言葉などとは、ずいぶんと前時代的と呆れたものだ。
「イロッフル・サ・コンフィアンス・エ・ソナムール」
 下手に反抗して疑われても嫌なので、しかと記憶した。
ここが異常に治安の良い国だとしても、トラブルは避けた
い。
「ようこそ日本へ。お荷物を持ちましょう」
「ありがとう。えーと、なんと呼べばいいのかな」
「人目のあるところでは神田と呼んでください」
「では、私はエリザと」
「よろしく」軽く握手を交わした。「Eのエリザか」と彼
は小声で呟いていたが、意味は解らなかった。
 荷物を受けとると、彼は私にプレゼントといって手足の
ない人形をくれた。日本の代表的なお土産で、後ろに電源
スイッチが付いている。それをオンにするとブルブルとま
るで生きているかのように震えた。強弱もあるらしい。
「もしもの為に、日本では寝室枕元にそれを備えるんだ」

Act.2「僕にこの手を汚せというのか」

 神田から日本の事についていろいろと学んだ。
日本人男性は普段臆病だが、こと猥談となると大声になる
こと。また、女性と向かい合って話すときは基本胸元を見
て会話すること。それに気付かないふりをするのが、日本
女性の嗜みであること。自分はドSであると豪語する女性
は、割りとそうでもなく、ドMであると豪語する男性は、
ドン引きするくらい変態であること。
 昨日は神田と日本の電車に乗った。
平日昼間で座席は空いていたが、不思議と神田は座ろうと
しなかった。私に電車の窓から見える風景をしきりに指差
して説明していた。
 彼は日本人ではあるが、生まれは日本ではないらしい。
だが、町並みは懐かしいと言っていた。  
 生臭い学生たちが乗り込み、電車内が混んできた。
奥に追いやられる形で、悪臭に耐えながら私は窓にへばり
ついた。
 目的地は? いつまで電車に乗るのか訊ねようと神田を
見ると、彼の視線は窓に潰された私の胸に注がれていた。
 やはり彼は日本人で、私は気付かないふりを続るべきな
のだろうか。

Act.3「潜乳」

 スパイにとって、深夜作戦は平常勤務のようなものだ。
出来の悪い機械の眼をすり抜けて、奥に隠された情報を暴
きだす。昼間の隠密行動の他に、泥棒の真似事もしなくて
はいけない。
 しかし、日本はそう容易くないようだ。セキュリティー
設備、警備員はさておいて。社畜と呼ばれる奴隷たちが、
昼夜問わず働かされている。目が正気ではない。やつらは
何か投薬をうけて働かされているに違いない。
「肝心の場所までこうも人が多くては辿り着けませんね」
 無線のイヤホンから神田の声が聴こえる。
「貴方がライダースーツなんて用意するから紛れ込む事も
出来やしない。しかもすごいピチピチで動きづらい」
「だからもっとジッパーを下げて、胸元を広げろと」
「これ以上下げたら出るじゃない!」
「あのー」
 不意に後ろから声を掛けられた。心臓を口から吐き出し
そうになる。困惑顔で私を見るのは青い顔した二十代スー
ツ姿の日本人。黒いライダースーツ姿の金髪白人女性の私
はどう履き違えても不審者だろう。
「あのー」
「これはーそのー、ええーと、キャンユースピークぅ、え
ングリッシュ?」
「後ろのロッカー、なんですけど」  
「えぇ?」
 青年はおずおずと、私の後ろのロッカーを指差した。私
が退けると、青年はロッカーの中からコートを取りだす。
 不審そうに私を眺めながら、ふらつく青年は帰宅した。
「ど、どういうこと?」
「興味なかったのかねぇ。今時の若いやつはこれだから」

Act.4「バスト数え唄」

 ついに研究所の中枢へ侵入を果たした私は、そこで世に
も恐ろしい発明品を発見した。
「掛けるだけで女性のバストサイズが判る眼鏡」
 これが世界を二分する発明品。取り扱い説明書には、い
くら詰め物をしようと、寄せて上げようとズバリ実物の大
きさを当ててしまうとある。
「ふふふ、ネズミが入り込んだようだな」
 科学者があらわれた。手には拳銃が握られている。
「こんなものを作って! 世界を混乱させる気か?」
 私は丸腰。神田は研究所の外。絶体絶命だ。
「だまれ! これさえあれば、儂はあの時騙されることは
なかったのだ。これさえあれば、あの女に」
「貧乳だっていいじゃない! そんな胸ごときで世界を巻
きこむなんて、狂ってる」
 科学者が銃口をこちらに向けた。
「いいか! 男はなぁ皆巨乳好きなんだ! 貧乳好きなん
てのはなぁ。安酒でも酔えればいいなんて輩が慰めにほざ
いた虚言。まやかしなんだ!」
「それは違うぞ!」
 神田がやってきた。走ってきたのか肩で息をしている。
科学者は動揺し、黒い銃口が二人の間をさ迷った。
「大事なのは大きさだけじゃない!」
「一番大事なのは、形、大きさなんかじゃ測れない」
神田の咆哮がこだまする。
「感度だ!」銃声がなり、神田は死にました。

Fin.


感想を投稿する
ログインする※ログインしなくてもコメントできます!
コメントするときにログインしていると、マイページから自分が付けたコメントの一覧を閲覧することができます。

名前は省略可。省略した場合は「匿名希望」になります。

感想の投稿には利用規約への同意が必要です。