キラキラライフ!(仮)

朝森雉乃

「おはようございます。金曜日の朝ですよ。起きてくださいな。起きてくださいな」
 目覚ましロボットがあたしの肩を優しくゆする。パチリと電源の入ったあたしは、今日の予定を思い起こす。今日は午前中まで事務のお仕事、そのあとはランチとデート、そしてお泊まりをする。なんてすてきな平日。
 ワクワクしだしたのを感じ取ったみたいに、ベッドロボットがぐーんとあたしの上半身をもたげて、下半身を追いだした。立ち上がると、クローゼットロボットが前にすべってくる。そしてお腹をパカッと観音開きにして、告げる。
「本日の気温は摂氏三十度。湿度は七十パーセント。日差しが照って暑いったら暑いわ。こんなお召しものはいかが?」
 掛かっているのは清楚なワンピースとかわいい帽子だ。ただの休日ならいいけれど、今日はお仕事もある。イメージを入力して一度お腹を閉じてあげると、クローゼットロボットはゴロ、ゴロ、と音を立てて、またパカッと開いた。
「こんなお召しものはいかが?」
 うなずくと、クローゼットロボットはあたしを抱き上げて、あっという間に着替えさせた。下ろされた床には移動ロボットが待っていて、洗面台まで連れていってくれる。
 洗面台ロボットは鏡をキラキラ反射させて笑った。
「おはよう。よく眠れたかしら」
「今日はお仕事のあとデートなの」
「あらまあ、それじゃお化粧も頑張っちゃうわよ」
 あたしはよろしくね、と視線を送って目を閉じた。
 ぷわっとミストが吹きだして、それからファンデーションパフが均一にあたしの顔をなでる。同時にアイブロウ、アイシャドウ、アイライン、リップが上品に塗られる。最後にほんのちょっぴりチークが差された。
「うふん、われながら上出来」
 お化粧が終わったことを察知した移動ロボットは、音もなくキッチンまですべる。そこにいたモーニングロボットが、あたしを認識して声をかけてきた。
「仕上がるまであと七分五秒。ご希望のソースはある?」
「お任せするわ」
 移動ロボットが変形した椅子に座って、通信ロボットのスイッチをオンにしながら答える。
 あれ、おかしいな。通信ロボットはしんと静かなままだ。
「あっ、コンセントが」
 いつの間に抜けたのだろう。移動ロボットはわずかにホバリングをして素知らぬふりをしている。こいつが引っかけたな。チェア形態でホバリングなんて、普段しないくせに。あたしは手を伸ばしてプラグを差すと、あらためてスイッチを入れて、テレビジョンモードに設定した。
「ハーイ、今日の運勢チェックランキングのコーナーです! 一位はB型のあなた。次から次へ楽しいことが絶えない一日でしょう。ラッキーアイテムはプラスドライバー」
 あたしはA型、残念。最下位だったらイヤだから、通信ロボットをインターネットモードに切り替える。ニュースを読んでいるうちに、モーニングロボットがやってきた。ぴったり、七分五秒。優秀なロボットだ。
 モーニングをすませると、移動ロボットがまたホイール形態になって玄関へと運んでくれる。靴をはいている間、名残惜しそうに足元をチョロチョロするからかわいらしい。最新型の移動ロボットは声を出すこともできるけれど、買い替えないのはやっぱりこの子に愛着があるからだった。
 ドアロックはすえつけの用心棒ロボットにまかせて、あたしは自転車ロボットを起動させた。緊急時自動ブレーキよし、鉛直維持ジャイロよし、チェーンに油も刺さっている。またがると、サドルが最適な高さに微調整された。
 友だちには、いまどき自転車ロボットなんて、と笑われるが、あたしはこうでもしないと運動不足で膝がギシギシ言いはじめるのだ。不便な体。でも、あたしの体。できるだけ大切に使いたい。ぐいっとペダルをこぐと、夏の湿気をすり抜けて、服と体の間に風が吹きこんだ。
「おはよう、今日もかわいいね」
 職場のガードロボットがすっと手をあげる。あたしも手をかざすと、認証が下りてエントランスドアが開いた。空調の効いた快適なオフィスはまだ静か、仕事のはかが行く時間。デスク上のそろばんロボットと万年筆ロボットを起動させると、昨夜から残っていた仕事を一気にこなした。
「ずいぶん早いじゃないか」
 出勤してきた上司が満足そうにうなずく。あたしは手を休ませないで、声だけで応える。
「今日、午後休いただきますから」
「そうだったね。新しい案件は他の子に回すよ」
「お願いします」
「ふふ、お化粧も気合が入っているようだ。デートかね? あいや、こういうのはセクハラかな、うんうん」
 上司は扇子をはたはたとせわしく動かしながら自分のデスクへ向かった。でも、あたしはちゃんとお化粧がかわいいことを確認できて嬉しかった。はりきって残りの仕事を進めると、時間は飛ぶように過ぎていく。
 タスクをきっちりと片づけた瞬間、お昼のチャイムが鳴った。外回り中の上司のデスクに処理済みデータチップを置き去りにして、さっそうとオフィスをあとにする。通りすがりに、自転車ロボットの自動帰宅スイッチを押した。デートに自転車はいらないもの。
 ちらりと先を見上げると、夏の日差しがキラキラと街を光らせている。タクシーロボット、ゴミ拾いロボット、カフェオープンの宣伝ロボット、どれもキラキラ輝きながら仕事をしている中を、休暇に入ったあたしがすいすいと歩き抜けていく。目指すは街を彩る電光看板がある広場だ。
 そこは、平日のお昼でもそれなりに混んでいて、一瞥するだけでは彼を見つけられなかった。さすがはメジャーな待ち合わせスポット。雑踏のすき間をゆっくりとぬいながら、今日のデートのことであたしは頭がいっぱいだった。こうやって探している時間が幸せなんだ、といつも思う。朝から感じていたワクワクが、ギュッと凝縮されて、パァッと世界を明るくしていくみたい。
 そうして華やかになった視界の端で、ゆったりと花壇に腰かける彼を見つけた。あたしはピョンと飛び跳ねる。
「お待たせ!」
「やあ、僕も今きたところだよ。お仕事、お疲れさま」
 穏やかな声、おっとりとした表情、落ちついたファッション、年上っぽいとっても紳士な身のこなし。優男風だけどちゃんと芯は通っていて、彼はやっぱり理想の恋人だった。
「さっそくランチに行きましょう」
「いいね。なににする?」
「あなたとのデートをたっぷり楽しみたいわ! 元気が出るものがいいな」
「あはは、それは嬉しいな。なら、こんなお店はどう?」
 彼はおもむろにシャツのボタンを外しだした。うっとりするような胸板にはめこまれた液晶画面には、感じのいいお店情報が並んでいる。その中のひとつをタップすると、恋人ロボットはくすぐったそうに笑った。
「まったく、きみはセンスがいい。どうして僕の行きたかったお店がわかったんだい?」
 ボタンを閉めなおした恋人ロボットは、あたしの腕をさりげなく取って、キラキラとした街をエスコートしてくれる。打ち水ロボットが霧を振りまく。小鳥ロボットが空中にまっすぐなラインを描いていく。街路樹ロボットが夏の風を受けてさわやかな音楽を奏でている。
 ああ、なんて贅沢なお昼かしら!
 お店に入ると、上品な給仕ロボットがやってきた。
「いらっしゃいませ。本日のメニューでございます」
「すみません、僕は恋人ロボットなのですが、E-27DX型のロボットが摂取できるものはありますか?」
「はい。E-27DX最新型様でしたら、こちらの朝しぼりオーガニック潤滑油がおすすめでございます」
「ありがとう、それにします。それから彼女には、そろそろ充電させてあげないと」
 彼の言葉に、私は耳をうたがった。充電?
「ちょっと、なにを言ってるの?」
「朝から働きづめだろう? 充電は大切さ」
「冗談言わないでよ。あたしは、ま、ダ――」

 ――バッテリ残量15%=確認/モード切替=エコノミ/温感・触覚・色覚センサ及び言語活動制限=確認――

「ほら、はしゃぎ過ぎだよ。あの、彼女はA-24型です」
「承りました。すぐA型用充電バッテリーをお持ちします」
「ええ、注文は以上で。OLロボットの口に合うような、すてきな電子をお願いしますね」

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