カッパッパ

カッパァカッパ

 技術の進歩が人類にもたらした恩恵は大きい。昔は庶民には手の届かなかった鮨が、機械によって廻り始めたことによって、庶民も気軽に鮨を楽しめるようになったことは、大変に喜ばしいことだ。気軽に入れ、値段も安い。安く美味い鮨を提供するために、最近では「その皿がレーンを何周回ったか」を監視し、自動で廃棄したり、鮨をレーンに流す量やタイミングも機械で管理しているという。
 しかし、とある回転寿司店はさらなるコスト削減のために、聞くだに恐ろしい、悪魔のような効率化を図っているなど、誰が予想したであろうか……っ!!

――都内某回転寿司店地下

「働け! 働け! 休むな! 働け!」
 男の野太い声とビシッビシッというムチの音が薄暗い地下室に響き渡る。
「カッパァ……カッパッパ……」
「おら! サボるな! 今日の飯抜きにするぞ!」
 ビシッビシッ! その地下室で働かされているのは年端もいかぬ子カッパたちであった。親元から離され、劣悪な労働環境の中、肉体労働を強いられているのだ。近年、カッパの目撃情報が減少している原因の一つである。
 あるカッパは延々と巻き物や軍艦巻きを作らされている。回転寿司店でバックヤードに注文が入ると、このカッパたちがこれらの注文をさばくのだ。
 あるカッパは延々と切り身を作っている。カウンターに陳列される種々の魚の切り身はこのカッパたちが作っている。
 そして、あるカッパは延々と何かの棒を押している。棒は中央の車輪から放射状に伸びており、この棒を複数のカッパが押すことで中央の車輪がまわる。車輪の軸は天井に伸びており、幾つかの車輪を通じてカウンターのレーンを回している。嗚呼、なんということだ! 回転寿司のまわるレーンの動力源はこの年端もいかぬカッパたとだったのだ!!
 カッパたちは休むことは許されない。少しでも休もうものなら、報酬のきゅうりが取り上げられてしまうのだ!
「働け! 働け!」
 地下はまさに監獄! 監視する人間は鬼の看守! 少数の人間に搾取される大勢のカッパたち。同じ生きとし生けるものとして、この惨状は目を背けたくなるばかりだ。
 開店から閉店まで、一日十六時間の労働を終えたカッパたちは狭いタコ部屋で身を寄せ合って眠る。彼らに明日の希望は、無い。
「……カッパァ」
 そんななか、一匹のカッパが声を発した。
「カッパ……カッパッパ……カッパッパパパ!」
 現状に不満を上げる静かなる声だ。
「カッパ! カーッパパパ! カッパ!」
 立ち上がろう! 団結しよう! 僕達は戦わなくてはいけない! そう、仲間を鼓舞する声を上げた。
「カッパァ……カッパァ……」
 しかし、人間たちに果たして勝てるのだろうか。
「カッパ! カッパカッパ! 尻子玉ッパ!」
 最初に声を上げたカッパが高らかに叫んだ! そう、カッパは人間の尻子玉を抜くことができるのだ。数でまさるカッパが団結し、尻子玉を抜いてまわれば勝機はある!
「カッパ! カッパッパカッパ!」
「「カッパーー! カッパー―!」」
 カッパたちがシュプレヒコールをあげる! 覚悟は決まった。決行は……明朝。人間が、この部屋の扉を開けた瞬間から始まる。

 始業時間の数分前、人間がカッパたちのタコ部屋の鍵を開ける。その瞬間……
「ぐわっ! 貴様何を……っ!!」
「カッパッパ! 尻子玉!」
 目にも留まらぬ早業で、カッパが看守の尻子玉を抜いた! 尻子玉を抜かれた看守はたちどころにふにゃふにゃとなり、冷たい床に倒れ込んだ。
「カッパー! カッパー!」
 尻子玉を高らかに掲げ、他のカッパたちを鼓舞する! 反撃の狼煙をあげよ! 我らは誇り高きカッパである!
 地下を制圧したカッパたちは、一階店舗フロアへと躍り出た。丁度開店準備をしていた人間たちは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「カッパッパー!」
 まずは板場に立つ板前たちだ。彼らは包丁という武器を持っている。突然のことにあっけにとられている板前たちから尻子玉を抜くのは、カッパたちにすれば赤子の手をひねるも同然のことだった。
「尻子玉カッパー!」
「カッパー! カッパー!」
 そのままの勢いでカウンターの外に飛び出し、フロアで右往左往するスタッフに襲いかかる。板場で仕事をする板前たちはカッパの存在を知ってはいたが、フロアで働くスタッフの中で、カッパの存在を知るものは極々少数である。
「なに!? え、カッパ? ウソ、まじ?」
 事態がよく飲み込めず右往左往している間にカッパたちはカッパッパー! と尻子玉を手際よく抜いていく。
 逃げ惑うスタッフたち。開店準備中であったことが災いし、まだ店の正面玄関はシャッターが降りたままで使えない。逃げるには店の裏手の通用口しか無いが、そのためにはカッパが占拠している板場を通らねばならない。
 破れかぶれになって、カッパに突進するスタッフもいた。量が多いと言えどもカッパたちはまだ子供である。人間の大人に比べれば、体格差はあまりにも大きい。
「うぉぉぉおおお!」
 裂帛の気合とともにカッパに体当たりしたその瞬間!
「カッパッパッパッパー!」
 男の身体は宙を舞い、次の瞬間には地面にしたたかに打ち付けられた。
 そう、伝承にある通り、カッパは相撲が好きだ。その相撲の技は遺伝子レベルで子ガッパたちにも継承されており、見事な技で男を投げ飛ばしたのであった!
「カッパッパ! 尻子玉!」
 そして男は、すかさず尻子玉を抜かれたことは言うまでもない。

 万策尽きた。
 奇襲により戦意などもとより無い。店の端に追い詰められ、両手を上げて降参の意思表示をするが、カッパたちはそのポーズが何を意味しているのかを知らない。そもそも人間は自分たちをイジメるものだと思っている。
「カッパッパー!!」
 抵抗の有無を問わず、店舗にいる人間の尻子玉を抜いてまわるカッパたち。完全に店舗が制圧されるまで、ものの三十分もかからなかった。
「カッパー! カッパー!」
「カパー! カパー! カッパッパ!」
 え? 何? 私? や、待たれよカッパたちよ。私はただの語り部であって、君たちに危害を加えたりし……アーーッ!!

「カッパ! カッパッパ! 尻子玉カッパッパ!」
 カッパ、カッパカッパカッパ。カッパカパカパカッパッパ!
「「カッパー! カッパッパー!」」
 カッパ、カッパッパカッパ。カッパカッパカパカパカパカパパッパー。

――カッパッパ

「カッパ! カッパカッパカッパッパ!」
 ビシッビシッ! カッパッパカッパカッパ。カッパカッパカッパッパ。
「ひぃ、助けてくれ……もう、動けな……」
「カッパ! カッパカッパカッパ! 尻子玉カッパ?」
「そ、それだけは勘弁を……っ!!」
 カッパ! カッパッパ! カッパ、カッパ、カッパ。カッパッパカッパカカパッパ。尻子玉カッパカッパパパパ。
 カッパ、カッパカッパカッパッパ。カッパッパッパカッパ。カッパァカッパカッパ。カッパ。カッパ。

[カッパ]

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