アナログゲーム紹介コラム -ワードバスケット-

水市

 私が好きなアナログゲームに『ワードバスケット』というものがあります。本稿では2017年4月23日、目黒区民センターで行われたイベント『ワードバスケット名人戦』の感想を述べます。
 本題に入る前にワードバスケットを知らない人のためにゲームの概要を説明しておくと、

・配られた5枚のひらがなのカードを「早いもの勝ちのしりとり」で一番早く全て出し切った人の勝ち。

 という、ただそれだけのカードゲームです。
 カードには1文字のひらがなが記されていて、手札の5枚は例えば「か」「き」「あ」「け」「る」というように配られます。中央に場札がセットされ、例えば「さ」のカードだった場合、プレイヤーは「『さ(ざ)』で始まって、自分の手札の字で終わる3文字以上の単語」を発声しながら手札を場札の上に捨てます。ターン制ではなく早いもの勝ちです。捨てられた札を新たな場札として同じことを繰り返し、手札を出し切ることを目指します。
 上記の状況だと、初手で「作家(さっか)」と言って「か」のカードを出し、「換気(かんき)」「Kindle(きんどる)」「ルアー」「朝焼け(あさやけ)」と続ければ勝てます。実戦では途中で他のプレイヤーのカードが割り込んでくるので、状況は刻々と変わりますが。
 他にも細かいルールはいくつかあり、一部割愛して主要なものだけ列挙します。

・ワイルドカードが存在します。「特定の行(あ行、か行など)の好きなひらがなとして使えるカード」と「末尾の文字は自由だが単語の文字数が指定されるカード(5文字ぴったり、6文字ぴったり、7文字以上の3種)」です。

・プレイ中いつでも「リセット」と宣言して自分の手札を総取り換えすることができます。手札の一部だけを換えることはできず、手札を全て重ねて場札の上に置いて新たな場札とし、山札から新たな手札として「捨てた枚数プラス1枚」引きます。手札や場札が難しい字になったときに使うと有効なアクションです。

・手札が残り1枚になったら「リーチ」と宣言します。宣言を忘れて他プレイヤーに指摘された場合、ペナルティーとして山札から1枚引きます。

・最後の手札を出すときは「4文字以上の単語」を使わなくてはなりません。

 私はこのゲームが得意なほうなので、友人たちと遊ぶ時はハンデをつけることにしています。説明書内で提案されているルールを拝借して「私だけ3文字の単語使用禁止。4文字以上の単語を使うこと」というところからスタートして、勝つたびに文字数を増やしていったりもします。「6文字以上」になってしまうとほとんど勝てなくなりますが、長い単語を考えること自体が楽しいので気に入っています。
 自分の中でいくつか定石のようなものも作っていて、例えば、

・「む」の札を引いたら化学物質の名前で出す。ヘリウム、カルシウム、マグネシウムなど。

・「わ」の札を引いたら川の名前や地名で出す。荒川、江戸川、品川など。

・「ぬ」の札は難しいが、犬の名前かフランス語で出す。柴犬、土佐犬、ソルボンヌ、マドレーヌなど。

・逆に「ぬ」が場札になった時は「盗み」「抜け」「塗り」などの活用を考える。盗み聞き、盗み見、抜け道、抜け穴、塗り絵、塗り薬など。

 というような文字対策を用意して遊んでいます。

 そんな「自称ワードバスケット上級者」だった私ですが、2017年4月の『ワードバスケット名人戦』にて、本物の名人たちのプレイングを目の当たりにして「自称中級者」に改めることにしました。上位陣と私との間には歴然たる力の差があり、私は出場者64名中29位という結果に終わりました。
 有限会社メビウスゲームズ主催の参加無料のイベントで、事前に多くの場所で告知されたので腕に自信がある人たちが集まったようでした。予選で4人グループでの対戦を組み合わせを変えながら8戦行い、成績上位16名が決勝トーナメントに進み、そこからは1対1での対戦を繰り返して順位を決めました。
 トーナメントを私が観戦した限り、勝敗に最も直結した要素は「リセットの判断の早さ」です。既に述べたとおり、状況が悪いときは手札を総取り替えできるのですが、強い人ほど見切りが早い傾向があったように思います。
 リセットすると手札が増えてしまうので「できるだけリセットせずに出したい」という心理が働くはずなのですが、名人には躊躇が見られませんでした。難しいカード1枚よりも簡単なカード2枚のほうが楽に出せるというのを確信した上での判断なのでしょう。リセットした結果、新たに難しいカードを引いてしまうこともありますが、懲りずに再度リセットして簡単なカードを3〜4枚揃えて、そこから一気呵成に全カードを切っていくという美しい流れがよく見られました。
 もちろん、リセットの早さだけ真似たら強くなれるというわけでもありません。手札3〜4枚の状態から一気に上がる技術がないと、いたずらに手札を増やすだけになってしまいます。
 私はなかなかリセットできないプレイヤーです。そもそも私がこのゲームに入れ込んだのは、物書きとして日本語についていつもと違う角度から考えるきっかけになったからでした。
「『ぬ』で終わる単語って他に何があるんだろう」
「最後の1枚が『か』のカードで『教科』や『キンセンカ』って言えば上がれる状況だけど、もっとかっこいい単語はないだろうか」
 という風に難しいほうに考えるのが好きで、そのせいもあって難しいカードを抱えてしまう傾向があります。普段楽しむときはそれでいいとして、今後本気で戦うときはリセット多用に挑戦してみたいところです。

 ここからはちょっと愚痴を含んだ話。
 アナログゲームが好きな人たちの中で、ワードバスケットは「短時間で遊べるのでやったことがある人は多いけど、好き嫌いが分かれるゲーム」であるようです。
 もちろん「じっくり考えるゲームが好き。慌ただしいゲームは苦手」という人がいるのは理解できます。私にも苦手なゲームはありますし、それはそれでいいです。
 私が苛立ちを覚えるのは「ワードバスケットは事前に単語を覚えるだけのゲームで底が浅い」という意見を見聞きした時です。自分が好きなゲームをそういう風に言われると内心穏やかではありません。その場では平静を装いつつ心の中でブチ切れています。
 真面目に反論をしておくと、単語を用意すれば勝ちやすくなるのは事実ですが決してそれだけのゲームではありませんし、単語を覚えること自体も楽しいことです。「色んな単語と出会うきっかけになる」という点にこそこのゲームの価値があると思っています。
 名人戦では「ヌクレオチド」という化学物質の名前が流行しました。あるプレイヤーが「ヌクレオチド」と言いながらカードを出し、知名度が低いため物言いがついたものの、その場でネット検索して存在が認められ、他のプレイヤーたちも多用するようになりました。
 文系の私が普通に暮らしている限りは知ることがない言葉を、こうして知ることができることに喜びを感じます。
 実は「と」のカードを出したいなら「盗人」と言えばいいだけなので、「ヌクレオチド」が戦術的に有効になる場面は文字数指定のワイルドカードを持っている時くらいしかないのですが、そんなことは別にどうでもいいのです。大の大人が覚えたての「ヌクレオチド」って言葉を言いたくて仕方がなくなる、そんなゲームなんです。

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