機械式・丸型メリヤス自動織機MMJS-1500【麻雀編】
ぎん
「三人か……」
景昭はつぶやくように言った。つぶやいている振りをしているが、明らかに栄太、敏に向かっているのだ。面倒くさいかまってちゃん発動である。
「そうだよ、三人だ」
一応かまってやらないともっと面倒くさいことになるのが分かり切っている栄太は、それでもそちらに顔を向けたりはせず丸形メリヤス自動織機、機械式MMJS-1500を磨く手を止めずに応えはした。敏は無視を決め込んでいる。そんな敏を栄太はうらやましくも思っている。
「麻雀がしたいよぉぉぉぉぉ〜〜〜!!」
景昭は突っ伏して泣き出す振りをした。マジで面倒くさい。栄太は本気で思った。
「ネットでやればいいだろ」
「バカかお前、バカなのか!? 己の手で混ぜて積んで牌をカチャカチャさせながら相手の顔色うかがってジリジリするのがいいんだよっ! 手で!! 手でやるから麻雀だろ!?」
「全自動卓は?」
おもむろに敏が話しに入ってきた。
「あれは人類の叡智だ」
手で混ぜて積んでとか言ったのはどこのどいつだ。栄太は変わらずMMJSを拭き、油切れの確認に移ろうとした。
ガチャガチャッ
「え?」
「おおーっ! 我が式神よ! 分かってくれるか!」
ガチャガチャ
MMJSは一応の主である景昭に呼応するかのようにどこぞの部品を鳴らす。
「……でもなー。お前じゃできないもんな」
ガチャガチャガチャガチャ
「おい! お前危ないよ! ただでさえ電源切るって発想がないんだからメンテ時は動くなって言ってるだろ! って、なに、打てんの? 麻雀」
「マジか、我が式よ!」
ガチャリ
三人はMMJSのそれを肯定と判断した。
大学とは探せばどこかに雀牌があるところだ。そして、四人目も探せば見つからないこともない。ただ、今回は人ではなかったが。
「さー、やるぞ」
勝手に仮東を決め込んで景昭はサイコロを振っている。起家は四人目をかって出てくれたMMJSと決まった。さすがにこいつに洗牌やら手積みは無理と判断し、そこまでは三人がやったのだが。
「おい、取れよ」
キリ……キリキリキリ……
「おいってば」
景昭はせっつくが、栄太と敏は顔を見合わせた。
「いや、無理っぽくね?」
洗牌できない時点で気づけよボケ。と思いつつも、配牌は無理でしょう。そこまではサポートしたとしても、引くのも捨てるのも無理っぽい。
「だーー!! ここまでやってできないとかナシだよぉ」
ギリギリギリ……
MMJSも辛そうである。
「あ、でも要はゲームとしては麻雀、できるんだろ?」
ガチャガチャ
どうやらそのようなので景昭はどこからともなく麻雀のできない森岡を連れてきた。
「悪いな森岡」
「いや、だからオレはできないよ?」
「コイツのいうとおりにやってくれればいいから」
MMJSを指さした。
「いや、コイツって。なに言ってるか分からんって」
結局MMJSにスマホを接続させ、捨て牌、鳴き、アガリの指示を出す寸法となったらしい。
とりあえず一巡。滞りなくこなせる感じがする。
「初期だかのポナンザ様みたいだな」
当時の最強将棋AIはポナさんではなかった気もするが、要はAIの指示通りにロボットアームでなく人が指すとうあれだ。今でも割と普通にある。敏はそのことを言っているらしい。
なんだかんだんで半荘終わった。結果、ポナンザ、もとい、MMJSが勝った。
「え? 勝ってるじゃん、おい、お前すげーな!」
森岡はMMJSを絶賛。賭けてはいない、賭けてはいないが代打ち代として幾ばくかの金銭……はアレなので近いうちに飲み代を奢るということで話しはつけた。
「代打ちとは違うだろ」
敏はぼそっと言った。
それ以来、景昭はなにかとMMJSと打ちたがった。実力は案外トントンかちょっとだけMMJSが上。勝ったり負けたりを繰り返していたのだ。代打ち……ではないが、代打ちのようなものが見つかればやらなくはないが、なかなかそんな人材は見つからない。見かねた栄太と敏はMMJSにロボットアーム的なモノを付けることにした。
「コレがあれば……一応はいけるんじゃね」
牌をつかむ。卓上に置く。牌を離す。見えている面を変えるよう、倒す(押す)。再び持ち上げて、置き直す。できなくはないようだ。一気に四牌は取れないので、一回一回やったりはする。しかしMMJS、普段はどこで見ているかはよく分からないが、どうやらこの麻雀に関しては盲牌しているらしい。牌を持ち上げた瞬間になんだか分かるらしい。しかも重さで。
「そりゃ、彫り方違うけど」
白はやはり重いのか。いや、そこまで重さがそろっていたのか。半信半疑だったが、どうやらロボットアームの感触チェックの際に何度も試験していたうちに牌の微妙な重さの差を学習していたらしい。
「よーし、コレでこの四人でいつでもできるな」
栄太と敏は景昭にとってはいつでもできる要員らしい。そうだろうとも。もうこの辺はつっこむのをやめている。
いよいよ「いつでも」の第一回麻雀大会が始まった。
洗牌やら手積み? とやられると牌の配置を覚えてしまう超一流イカサマ師っぽくなってしまうので、結局そこは三人でやる。景昭はそれでもかまわん、といった具合でうきうきしていた。いよいよ配牌。
プシューッ、プシューーっっ、カチャカチャ……カチカチカチ、プシューーッ、プシューーー……
アームの伸縮音やら牌を並べる音が響く。
「まどろっこしいわ!!」
景昭と栄太が同時に叫んだ。
複雑なアームを付けたわけでもなく、かなり簡素な直線稼働のみのエアシリンダーでしかないものを取り付けていて、回転系はほぼ入っていない。割といちいちプシュープシューと空気の漏れる音が出る。
「なに言っているんだ!」
MMJSからではなくちゃんとした人語で敏が反論し始めた。
「ただでさえ電源フリーな機械の上、コンプレッサーもなくこのアームを空気圧で動かしているんだぞ! 自発呼吸と言っても過言じゃないんだぞ! そこを絶賛してやれよぉぉ!」
どうやら敏は、あえてエアシリンダで動くアームを採用したようだ。
この後数日、夜な夜なプシュープシューとコンプレッサーの稼働音もないのにエアシリンダから漏れ出る空気の音が雀牌の音に混じって聞こえたらしい。でも、こんなにメカメカしいのに、所詮は織機。洗牌も手積みもできない。
全自動卓的なことができないものかと、ついつい思ってしまう栄太であった。
景昭はつぶやくように言った。つぶやいている振りをしているが、明らかに栄太、敏に向かっているのだ。面倒くさいかまってちゃん発動である。
「そうだよ、三人だ」
一応かまってやらないともっと面倒くさいことになるのが分かり切っている栄太は、それでもそちらに顔を向けたりはせず丸形メリヤス自動織機、機械式MMJS-1500を磨く手を止めずに応えはした。敏は無視を決め込んでいる。そんな敏を栄太はうらやましくも思っている。
「麻雀がしたいよぉぉぉぉぉ〜〜〜!!」
景昭は突っ伏して泣き出す振りをした。マジで面倒くさい。栄太は本気で思った。
「ネットでやればいいだろ」
「バカかお前、バカなのか!? 己の手で混ぜて積んで牌をカチャカチャさせながら相手の顔色うかがってジリジリするのがいいんだよっ! 手で!! 手でやるから麻雀だろ!?」
「全自動卓は?」
おもむろに敏が話しに入ってきた。
「あれは人類の叡智だ」
手で混ぜて積んでとか言ったのはどこのどいつだ。栄太は変わらずMMJSを拭き、油切れの確認に移ろうとした。
ガチャガチャッ
「え?」
「おおーっ! 我が式神よ! 分かってくれるか!」
ガチャガチャ
MMJSは一応の主である景昭に呼応するかのようにどこぞの部品を鳴らす。
「……でもなー。お前じゃできないもんな」
ガチャガチャガチャガチャ
「おい! お前危ないよ! ただでさえ電源切るって発想がないんだからメンテ時は動くなって言ってるだろ! って、なに、打てんの? 麻雀」
「マジか、我が式よ!」
ガチャリ
三人はMMJSのそれを肯定と判断した。
大学とは探せばどこかに雀牌があるところだ。そして、四人目も探せば見つからないこともない。ただ、今回は人ではなかったが。
「さー、やるぞ」
勝手に仮東を決め込んで景昭はサイコロを振っている。起家は四人目をかって出てくれたMMJSと決まった。さすがにこいつに洗牌やら手積みは無理と判断し、そこまでは三人がやったのだが。
「おい、取れよ」
キリ……キリキリキリ……
「おいってば」
景昭はせっつくが、栄太と敏は顔を見合わせた。
「いや、無理っぽくね?」
洗牌できない時点で気づけよボケ。と思いつつも、配牌は無理でしょう。そこまではサポートしたとしても、引くのも捨てるのも無理っぽい。
「だーー!! ここまでやってできないとかナシだよぉ」
ギリギリギリ……
MMJSも辛そうである。
「あ、でも要はゲームとしては麻雀、できるんだろ?」
ガチャガチャ
どうやらそのようなので景昭はどこからともなく麻雀のできない森岡を連れてきた。
「悪いな森岡」
「いや、だからオレはできないよ?」
「コイツのいうとおりにやってくれればいいから」
MMJSを指さした。
「いや、コイツって。なに言ってるか分からんって」
結局MMJSにスマホを接続させ、捨て牌、鳴き、アガリの指示を出す寸法となったらしい。
とりあえず一巡。滞りなくこなせる感じがする。
「初期だかのポナンザ様みたいだな」
当時の最強将棋AIはポナさんではなかった気もするが、要はAIの指示通りにロボットアームでなく人が指すとうあれだ。今でも割と普通にある。敏はそのことを言っているらしい。
なんだかんだんで半荘終わった。結果、ポナンザ、もとい、MMJSが勝った。
「え? 勝ってるじゃん、おい、お前すげーな!」
森岡はMMJSを絶賛。賭けてはいない、賭けてはいないが代打ち代として幾ばくかの金銭……はアレなので近いうちに飲み代を奢るということで話しはつけた。
「代打ちとは違うだろ」
敏はぼそっと言った。
それ以来、景昭はなにかとMMJSと打ちたがった。実力は案外トントンかちょっとだけMMJSが上。勝ったり負けたりを繰り返していたのだ。代打ち……ではないが、代打ちのようなものが見つかればやらなくはないが、なかなかそんな人材は見つからない。見かねた栄太と敏はMMJSにロボットアーム的なモノを付けることにした。
「コレがあれば……一応はいけるんじゃね」
牌をつかむ。卓上に置く。牌を離す。見えている面を変えるよう、倒す(押す)。再び持ち上げて、置き直す。できなくはないようだ。一気に四牌は取れないので、一回一回やったりはする。しかしMMJS、普段はどこで見ているかはよく分からないが、どうやらこの麻雀に関しては盲牌しているらしい。牌を持ち上げた瞬間になんだか分かるらしい。しかも重さで。
「そりゃ、彫り方違うけど」
白はやはり重いのか。いや、そこまで重さがそろっていたのか。半信半疑だったが、どうやらロボットアームの感触チェックの際に何度も試験していたうちに牌の微妙な重さの差を学習していたらしい。
「よーし、コレでこの四人でいつでもできるな」
栄太と敏は景昭にとってはいつでもできる要員らしい。そうだろうとも。もうこの辺はつっこむのをやめている。
いよいよ「いつでも」の第一回麻雀大会が始まった。
洗牌やら手積み? とやられると牌の配置を覚えてしまう超一流イカサマ師っぽくなってしまうので、結局そこは三人でやる。景昭はそれでもかまわん、といった具合でうきうきしていた。いよいよ配牌。
プシューッ、プシューーっっ、カチャカチャ……カチカチカチ、プシューーッ、プシューーー……
アームの伸縮音やら牌を並べる音が響く。
「まどろっこしいわ!!」
景昭と栄太が同時に叫んだ。
複雑なアームを付けたわけでもなく、かなり簡素な直線稼働のみのエアシリンダーでしかないものを取り付けていて、回転系はほぼ入っていない。割といちいちプシュープシューと空気の漏れる音が出る。
「なに言っているんだ!」
MMJSからではなくちゃんとした人語で敏が反論し始めた。
「ただでさえ電源フリーな機械の上、コンプレッサーもなくこのアームを空気圧で動かしているんだぞ! 自発呼吸と言っても過言じゃないんだぞ! そこを絶賛してやれよぉぉ!」
どうやら敏は、あえてエアシリンダで動くアームを採用したようだ。
この後数日、夜な夜なプシュープシューとコンプレッサーの稼働音もないのにエアシリンダから漏れ出る空気の音が雀牌の音に混じって聞こえたらしい。でも、こんなにメカメカしいのに、所詮は織機。洗牌も手積みもできない。
全自動卓的なことができないものかと、ついつい思ってしまう栄太であった。
閲覧数:906