夢の国の鼠と不死Q廃乱堂

美月真雲と無死球大乱闘

※この作品は実在のアレとかコレとかとは一切関係ありません。

※二〇XX年二月一一日の報道※
 一一日午前一一時頃、ぜーあーる新富士駅付近で新幹線「ぴかり」が謎の飛行物体の襲撃を受け、一部の車両が乗客ごと強奪された。
 車両にはウニバーサル・スタジオ・ジャパンのキャラクター等の関係者が多数乗車していた。ウニバーサルは一〇日に東京(千葉)でニズデー・リゾートの野球チームと対戦し、一一日は移動日だった。一二日には大阪で二試合目が予定されているが、取材に対しウニバーサルは「事態の把握と解決に努めている」とコメントしたのみで、試合の中止や延期の判断には踏み切っていない。
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 超理ブラウンが目を覚ますと、そこは薄暗い部屋だった。
 身体には拘束衣。手足がまったく動かせない。拘束衣の背は直立したベッドに固く縫いつけられている。頭にはヘルメット状の装置が被せられている。少し頭痛がする。左右にはウニバーサルの仲間たちが同様の姿勢で拘束されているが、意識を取り戻したのは超理ブラウンだけのようだ。
 戸惑いつつ自分の記憶を振り返る。昨日、ニズデーとの試合に登板し、八回まで好投したが結局敗れた。ヤケ酒を飲んで寝て起きて今日、仲間たちと新大阪行きの新幹線に乗車した。突然新幹線が緊急停車し、車両全体が強く揺れた。同時に妙な匂い。車内に催眠ガスが流されたのだろう。記憶はその時点で途切れている。
(地震や事故じゃなくて敵襲だったんだな。ヤレヤレ)
(ニズデーの仕業かな? 昨日、キツミーとブウサンに危険球を投げまくったから、その報復……?)
 しかし、超理ブラウンの予想は外れている。
「ほう、これは意外。目を覚ました者がいるようだな」
 壮年の男が部屋に入ってきて、超理ブラウンを見るなりそう言った。威厳に満ち、明らかに只者ではない風格を纏っている。頭に武将の兜。身体は外套に覆われている。肌は絵の具で塗ったような緑色だ。ニズデーのキャラクターには見えない。
 超理ブラウンは思わず質問する。
「あなたは誰だ? 日本の伝説にある河童とかいうモンスターか? あと、ここはどこなんだ?」
「くくく……。ここがどこだってよいではないか。私が誰だってよいではないか。河童でもそうでなくてもよいではないか」
 緑の男の嘲るような不気味な笑み。超理ブラウンは若干引きつつ、さらに質問する。
「よいではないか、ってのは何だ? あなたの口癖か?」
「『よいではないか』を知らないのだな。知名度の低さが悲しいね。諸君は『よいではないか』によって捕まったわけだから、これを機に評価を改めてもらえると嬉しいよ」
 そして、緑の男は少し思案して言う。
「評価を改めてもらうには、教えてやる必要があるか」

「ここは不死Q廃乱堂だよ」

 超理ブラウンは息を呑んだ。
「……確か、富士山の近くのテーマパークだったか」
「その通り! そして『よいではないか』は不死Q廃乱堂が誇る絶叫マシーンの大傑作にして最強の兵器! 新幹線の車両を持ち去るなど朝飯前のことよ!」
「何のために僕たちを拉致した? ウニバーサルに身代金でも要求する気か? 人質交換が成功するとは到底思えないけれど」
「金なんてどうでもよいではないか。金より重要なものが目の前にあるのだから」
 緑の男は超理ブラウンの頭部を指した。
「そのヘルメットは洗脳装置なのだよ。全員、我がしもべになればよいではないか!」
「ぐっ……!」
 このヘルメットには人格を改変する機能があるようだ。脳への干渉。頭痛はそのせいか。
「ウニバーサルの諸君がしもべになれば勢力図は大きく動く。それだけではない。今頃『よいではないか』はニズデーの車両を襲っている」
「!!」
「ちなみに『しもべ』というのは下僕という意味だ。決して山梨県南巨摩郡身延町下部じゃないぞ。ここは富士吉田市だからな」
 このままではまずい。超理ブラウンは抵抗しようとするが、自慢の膂力をもってしても拘束は解けない。心が折れ、意識が薄れていく超理ブラウンの耳に、
「そこまでだ」
 突如、聞き覚えのある声。
 緑の男の背後に人影。円を三つ重ねたような特徴的な頭部の輪郭。黒い手足はところどころ汚れている。昨日の死球以外にも負傷が増えているようだ。しかし表情は力強い。
 彼は淡々と用件を告げる。
「ウニバーサルの連中を全員解放しろ。当然、危害を加えずにな」
「き、君はキツミーマウス!?」
 超理ブラウンは声を上げた。緑の男も慌てた様子で振り返り、数歩後ずさった。
「馬鹿な! ニズデーの連中は『よいではないか』を打破したというのか! そ、そそそそれだけではないな! ここに辿り着いたということは『FUSHIANA』も『怒・怒怒ン婆』も『振り飛車』も『ヘンテコ舞い』も『接骨番長』も『欠乏要塞』も『揉ンデミーナ』も『長嶋ッスカ?』も突破してきたのか!」
 キツミーマウスは真顔のまま小さく頷く。
「ついでに『ペット・タワー』も『ラット・マウス』も片付けといたぞ。こっちのマウスは手応えがないな。あとはこの『前立腺迷宮』だけだ。覚悟しろ」
 緑の男は「ぜ、全滅……」と呟き腰砕けになったが、数秒間を費やし何とか最低限の威厳だけを取り戻し、捨て台詞を吐いた。
「……今日のところは私の負けだ。だが覚えておけ。私はすぐ不死Q廃乱堂を再建する! そして、いずれニズデーもウニバーサルも凌ぐ存在になるのだ!」
 緑の男は懐から煙玉を取り出し床に叩きつけた。煙が消えると、そこに男の姿はなかった。
 キツミーは周囲を警戒しつつ、超理ブラウンの拘束を外していく。
「施設ごと自爆するような奴じゃなかったようだ」
「抜かりないな君は。まあ、彼は僕たちを殺す気はないみたいだ。そのつもりなら新幹線の時点でやってただろうし」
 あの男はニズデーやウニバーサルを自陣営に取り込もうとしている。またやって来るに違いない。
「それにしても、なぜ僕たちを助けにきた? 僕は昨日、君に死球攻めを仕掛けたんだぞ?」
「ああ。めちゃくちゃ痛かった」
「じゃあ、なぜ? 君が僕たちを助ける義理なんてない」
「こんなつまらんことで試合を中止するわけにはいかんだろうが。お客はもうチケットを買ってるんだぞ? お客の期待を裏切るような真似、俺にはできんよ」
 噂に聞くキツミーのプロ意識を垣間見て、超理ブラウンはしばし呆然とする。お客のために、敵を助けに危地に赴くとは。
「あと『ニズデーが勝ち逃げした』って言われるのも嫌だしな。きっちり連勝して格の違いを見せる。それが俺のやり方だ」
「……後悔するかもよ? 僕たちは二試合目、君たちに圧勝するかもよ? 悪いけど僕たちは君に恩を感じるような善人じゃない」
「ははっ。言われんでも知っとるわ。全力で来やがれ。全力でぶつかるために、ここに来たんだ」
 キツミーは笑みを浮かべた。それは緑の男のものとはまったく違う、気持ちのよい表情だった。
 超理ブラウンはキツミーに奇妙な友情を感じていた。自分が明日出場する見込みは薄いが、もし出場したら正々堂々と対決しよう。名勝負を演じよう。そう心に誓った。

 ……しかし、超理ブラウンの決意は無為に終わった。メンバー全員が拘束中に変な感じに寝違えてしまったので、ウニバーサルは一試合目の接戦がウソのようにボロ負けした。

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