まじかる☆美少女ポニ子ちゃん

精霊皇国

「へん☆しん!」
  人気のない高層ビルの屋上に、黄色い声がこだまする。謎の光が霧散し、ピンクのドレスを身に纏った少女が姿を現した。ハートのリングで結わいた栗色のポニーテール。女子中学生、藤堂マオは魔法少女ポニ子へと変身した。
 ポニーテールとツインテールのどちらの髪型が真に可愛いか、古くから争いを続けている二つの派閥があった。ポニテ愛好家が集うノリナ同盟と、ツインテ至上主義のエンジェルウイング教団。ポニ子はノリナ同盟に所属する魔法少女の一人である。実戦経験はまだ少ないが、美しい光沢を生み出すキューティクルと、柔らかいが細すぎない髪質は、魔法少女の適性として十分であった。
「よし、がんばるぞ!」
 ポニ子はふんすと息を吐き、フェンスを軽やかに跳び越えると、そのまま地表へ向けて滑空していった。
 本部から無線が入ったのはつい先刻のこと。市街地にて、エンジェルウイング教団の者が道行く人々の髪型を次々にツインテへ変えている、といった報告であった。出動要請がかけられたのは、たまたま社会科見学で現場近くへ来ていたポニ子。体調不良を理由に抜け出し、そして今に至る。
 身を翻し、鮮やかに着地してみせたポニ子は、ドレスの裾を払いながら周囲に気を配る。交差点の向こう、ガードレールに腰かける一人の少女がいた。黒のゴシックファッションに、金色のツインテール。彼女が被害者ではなく加害者であることは一目瞭然であった。慎重に近づくポニ子に気が付いた少女は、その口元に不敵な笑みを浮かべる。見慣れたその顔に、ポニ子は辟易してため息をついた。
「ごきげんよう、マオさん」
 口元に手を添えくすくす笑う少女。エンジェルウイング教団所属の魔法少女で、自称フェブラリィセカンド。二月二日がツインテの日ということだが、長いのでポニ子はフツカと呼んでいる。英語は苦手だった。
「社会科見学、楽しんでいたところ悪かったわね」
 フツカは立ち上がると、その顔に笑みを張り付けてゆっくりとポニ子の元へと歩み寄る。彼女は手数で相手を蹂躙するタイプの魔法少女だ。近距離型の間合いに持ち込もうとしていることは目に見えている。充填された魔力の大きさにより毛髪は自在に長さを変えるが、ツインテは二房に分けるためポニテよりもリーチが短いのだ。
 ポニ子はじりじりと後退するが、ある程度で勝負に出る必要があった。背後のビルにはまだ、この状況を知らない同級生たちが残っている。
「見学はあと一時間といったところかしら。タカシ君、あなたのその姿を見たらなんて言うかしらね」
 宿敵を前に熱を帯びていたポニ子の額から冷や汗が垂れる。タカシとはポニ子もとい藤堂マオのクラスメイトである。なんてことのない、一人の少女が想いを寄せる一般男子である。広く世間に認知されている魔法少女だったが、齢十三の少女には年頃の羞恥心がある。それこそ普段の藤堂マオは、温厚篤実な学級委員長。派手なドレスを纏って暴れまわる姿など、とても好きな男子に見せるわけにはいかなかった。それでも、それでもポニ子は戦わざるを得ない。ポニテがツインテに負けるわけにはいかない。ポニテが好きだと言った彼のためにも。
「むしろ見せるべきではないかしら。そして知ってもらうのよ。真に可愛い髪型はツインテールであるということ。そう、タカシくんが選ぶべきは、ポニテの貴女ではなくツインテの私、ふぇぶらりーせくぁんどだということを!」
 背後に気をとられていたポニ子は、フツカの光り輝くツインテを見て彼女の間合いに入ってしまっていることに気が付いた。油断を省みる間もなく、フツカのツインテが黄金の切っ先となってポニ子に襲い掛かる。ポニ子もポニテに魔力を注ぎ、身を回転させて栗色の一閃でそれを弾き返す。しかしフツカの攻撃は時に鞭のように、時に槍のように縦横無尽にポニ子を攻め立てた。躱しきれない攻撃のみ払い除け続けるものの、二本であるはずのツインテは徐々に残像との区別がつかなくなってくる。防戦一方。いずれ押し切られると判断したポニ子は一瞬の隙をつき、ポニテで地面を叩いて後方へ退いた。それを見てフツカは攻撃の手を止め、またゆっくりと歩みを進める。
「ポニテなんて所詮、一房だけの火力バカ。美しくないわ。美しくないわよ。御覧なさいこの天使の翼を!」
 フツカがツインテをぶんぶん振り回しなにやら騒いでいるが、よく聞こえないところまでポニ子は後退していた。確かにポニテには一撃必殺の火力がある。そして射程の長さ。フツカの射程圏外から攻撃するのは容易だが、それでも二本の盾を突破するのは難しい。過去に何度か対戦したが決着はない。今日こそはと、ポニ子は意気込みながらも冷静に思考を巡らせた。一撃で仕留める。そのためには。
「あら、それ以上退けばビルから貴女の姿が見えてしまうんじゃないかしら」
 フツカの声は聞き取れる。けれどツインテは垂らしたまま。決めるならこの距離だ。ハートのリングが閃く。両拳を強く握ってポニテを振るう。重みのある切っ先はアスファルトを砕きながら路面を駆けた。
「いつ見ても野蛮だこと。ポニテなんて大人しく頭の後ろで揺れていればいいのよっ!」
 フツカは叫び、両手を抜刀するかのように振り抜いた。ツインテを交差させて一点で受け止め弾き返した。拡散する金色の魔力の向こうで、フツカは確かに笑っていた。
「まだまだ、これからだよ!」
 フツカのどや顔に苛つきつつも、ポニ子は落ち着いて攻め続けた。頭の後ろで力を溜め、右、左、右右左。重たい一撃を送るも、フツカはベールのようにツインテを振るい舞い踊っていた。
「ほんと、美しくないわ。右か左か一方からしか出せない攻撃。女の子ならもっと見栄えを気にしたら?」
「美術の先生が言っていたの。左右非対称だからこそ、自然の美しさ、親しみが湧くんだって」
 ポニテは普段、真っすぐに下りているだけ。正面からでは拝むこともできないが、風に靡けばどちらかにその尾が現れる。状況により変わる姿はまさに自然の美。
「いつもうなじを見せている方がはしたないと思うけど。たまには後ろ姿にも気を遣いなよ」
 空気が冷え込むのがポニ子には感じ取れた。今のフツカは、きっと「美しくない」顔をしているだろう。
「私はいつも魅せなきゃいけないの。たまにしか会えないんだもの。タカシ君と同じ学校の貴方には分からないわ!」
 フツカの放つ金色のオーラが渦となって立ち昇る。ツインテは今まさに飛び掛かってきそうな殺意を滾らせていたが、フツカの顔に浮かぶのは悔しさのように見える。
 何度も戦う内に、ポニ子は知った。フツカもまたタカシ君を想う一人であるということを。学校も違う彼女は目立つために、タカシ君に見て欲しくて魔法少女になったことも。ポニ子とは対照的な、一人の女の子。
「タカシ君は言ってくれた。初めて会ったとき、そのツインテール可愛いねって。だから私は負けられない。ノリナ同盟には、貴女には負けられないの!」
 ツインテが螺旋状に、空気を貫くようにポニ子へ迫る。しかしポニ子はそれを弾くことも避けるそぶりも見せなかった。フツカはハッとして螺旋をばらし、二つの切っ先がポニ子の両頬を掠めた。
「血迷ったの? 次は当てるわよ、いえ、後ろ!」
 フツカが振り返るも遅く、ポニ子の背後から地中を突き進んでいたポニテが地表からうねり出て、両足を払った。常に死角をとれるポニテだからこその戦術。宙を舞うフツカは吹っ切れたように、淑やかに笑っていた。
 勢いよく倒れたフツカに歩み寄り、ポニ子は手を差し出した。争いがなければ同年代の女の子。フツカと友達になりたかった。しかしフツカはその手を払い、ポニ子を隠すようにして背後に立った。呆気にとられるポニ子だったが、賑やかな声が聞こえ即座に状況を察する。振り返ればタカシ達がビルから出てきていた。
「おい見ろよタカシ。ポニテとツインテ、魔法少女だぜ」
「みみ、見ないで!」
 あわあわしながらフツカの足元で丸くなるポニ子。壁になってくれているフツカの身体は小さく、バレる前に退散したいが足が震えて動けない。
「いやうん。最近は俺、サイドテール推しでさ。先生がほら、アシトメリーとかなんとかって」
 語り終えることもなくタカシの身体は遠くへ吹き飛ばされた。このとき臨界点を突破するほどの魔力を放った二人の魔法少女だったが、その後、彼女らの戦う姿を見た者はいなかったという。

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