meme me...

アイツ

 meme meとは、所謂大規模なコミュニケーションツールですが、少し普通のものと違っています。どういう点で違っているのかと言うと、コミュニケーションで使われる媒体が、口でも、ペンでも、指でもないところです。
 ココロです。ココロで話すコミュニケーションツールです。
 ところで、ココロで話すってどういう意味やねんという疑問が浮上すると思いますが、そいつはよくわかりません。なんかわかります。って言うと文系の人に怒られそうですが、本当に言語化できません。
 目と目が合うだけですべてが終わるのです。そんなツールなので、今までのコミュニケーションに許されていた嘘が使えなくなりました。
 あまり可愛くない女の子に可愛くないという情報を付属していたのを知られて、絶交されました。
 差別意識がある事を悪く思う人とかはそもそもシャットアウトされていて、私は逆差別を受けている気がします。私は嘘が欲しくなりました。
 私はmeme meが嫌いです。meme meのせいで、友達が10人に減りました。それも、小学校卒業してから一回も会っていない人たち。多分再開したら減っていくんでしょう。9、8、7と、いずれ0に。もはや最悪のコミュニケーションではないでしょうか。
 私のココロが丸裸です。
 そんな時、スーツを着た小洒落たおじ様が私の前に現れたのです。
 情報を覗くと、あら完璧。年収1000万、独身で高身長。お仕事は何をなさっているのかしら? 職歴は、どれどれ、meme meの運営にいたの。その後は在宅ワーク? 将来が不安ね。でも貯金が既に10億を超えている? 素敵よ、あなた。
「これはこれは、若いお嬢さんに褒められると照れますな・・・」
「いえいえ、こちらこそお恥ずかしい限りです」
 声も渋くてかっこいいわ。
「ははは、ありがとうございます」
「いえいえ、本当の事ですもの」
「しかし、若いのにmeme meを、使いこなしていますね。相当使い込んでいらっしゃる?」
「いえいえ、そこまでは・・・」
「ほう。しかし、かなり使い込んでる模様。最初に年収を見るのはみな同じです。職業を見るのもよくあります。しかし、職歴を見た方はあなたで27人目です」
「そう、ですか・・・」
「ええ。わかりますとも。すべてを見ようとしている。すべてを見ようとして、失敗して来た事でしょう」
「それも、丸見えですか」
「ええ。そんな方が出てくると思ったので、私はmeme meには反対だったのです。あなたも、反対派でしょう」
「そんな事まで。こういう意見を持つと、少し怖いのですが、meme meに反対すると、何か怖い目に遭うのですか?」
「いいえ、しかし、人生が台無しになるでしょう」
「ええ、そうなの。人生が台無し。友達の9割と絶交させられました。最も」
「そのうち3割が自分から絶交した。という事ですね」
「そういう事です」
「わかりました。素晴らしい。まさにあなたのような方を探していました」
「それはどういう・・・」
 これ以上聞こうとした時、小洒落たおじ様が、右ポケットから黒いカードを取り出しました。クレジットカードでしょうか?
「ははは、違いますよ。これは、meme meの情報を任意に遮断する魔法のカードです」
「そんな事が・・・」
「できるんです。情報を遮断する事で、ネガティブ過ぎる人を救うためのカードですから。どうです、欲しいでしょう?」
「え、ええ」
 そう言うと、小洒落たおじ様はカードを私の手の上に乗せてくれました。
「これは無料です。もともとmeme meは不完全な製品でした。それが世に広まっている事自体が不自然なのです」
「そう、ですか・・・」
「はい。しかし、これだけでは友人を減らす事がとまるだけなのです」
「というと、まさか・・・」
「はい。まさにあなたの目標である、情報を偽る。つまり、嘘の情報を作れるカードもあるのです」
 そう言って、小洒落たおじ様は左ポケットから白いカードを取り出しました。黒いカードと対になるモノとして、文字以外は黒と白が逆になったデザインになっています。
「これで、友達を増やせるでしょう。勿論、こちらも無料でお渡しします」
 小洒落たおじ様は笑顔で、カードを手のひらに乗せてくれました。
「これで、友達ができるのでしょうか?」
「はい。これで、友達ができるはずです」
 友達がいた頃を思い返し、迷わず私は受け取りました。小洒落たおじ様は笑顔で去って行きました。幸いにもカードの使い方はわかりました。頭にかざすだけのようです。how to useという場所に書いてありました。
 迷わず頭にかざしました。外見重視という性格を、中身重視に書き換えて、これまで切ってきた友人関係を全部クリーンにしました。10人だけ残っている友達を残して、私は都会に向かいました。
 電車の中でみんなにじろじろ見られました。じろじろ見て気持ちが悪いという情報を遮断しました。少し微笑むと、友人登録を、たった3駅の内に14件も貰えました。
 都会に着いた時には3桁に突入。私の情報を隠せば、芸能人みたいになれるんだ。私は感動しました。構内をスキップで駆け抜け、いざ大通りへ。とりあえず良さそうな子だけピックアップして友人認証。後は保留かな。
 さっきまでの感情はどこに行ったんだろう。あんなにへそを曲げていた人生を肯定していたのに、まるで私、翼が生えたように軽くて高い気がする。たった二枚のカードで、私、こんなにも変われるんだ。このまま、どこへでも飛んでいけそうな気がしました。
 スキップで十字路を渡り切った先に、良い服を着て、きれいなメイクをした女性が、20人程倒れていました。地面を這いずり回るネズミのように汚く、目が虚ろ。あり得ないでしょ。
 人の不幸は蜜の味と言いますが、私には着れなかった服を着ていた奴、何らかの不幸にさいなまれたのでしょう。でも私は違う。私には翼がある。あなたたちとは違うの。
 私は変わらず、スキップをしたまま、街へ向かいました。

 裏路地の湿気を浴び、朽ちていく猫がまた一つ。涸れた涙の跡が黒く染まり、瞳は虚ろ。
 強く柔らかい馬の蹄。静寂に混じる頃、子猫がその音に縋り付く。
「大丈夫です。他人の記憶を書き換えるカードがあります。が、こちらは少しお高めですよ?」

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