神アイドル☆ミミみ 第一話『伝説の始まり! 神アイドル爆誕‼』

味素や寿司

 なに、神アイドルミミみのことが知りたいじゃと?
 よかろう、耳の穴かっぽじってよーく聞いとけ!

 暇人のバジは街はずれの『トーフー生物科学研究所』を訪れた。ここではトーフーというちょっぴりおかしな博士が独りで研究をしており、好奇心旺盛なバジはたまに来てトーフー博士と遊ぶのである。最近は何かの研究に没頭していて遊んでくれない博士だったが、LINEで「アソビニキテチョ。手伝ってほしいことがあるのじゃ」という連絡が来たので、バジはスキップして研究所まで向かったのだった。

「おお、バジ君。よく来おったね。待っていたよ」
 トーフー博士は机で本を読んでいたが、バジに気がつくと、椅子から立ち上がって出迎えてくれた。
「まずは見てもらいたいものがある」
 博士はそのままバジを奥の部屋に通した。そこはうす暗い部屋で、どうやら大きな檻が一つあるきりのようだ。博士が部屋の明かりをつけると、檻の中にいるものがバジにもはっきりわかった。
 その姿は六本足の太った黄色い獣のよう。ただし体毛はなく、おまけに頭部もない。ほんらい頭がつくべきところはつるつるしていて、足の向きがなければ前後がわからない。もっとも奇妙なのは、その身体の側面に四つの大きな耳が生えているところである。
「この摩訶不思議なものはいったい何ですか。ダンボの突然変異?」
「これはな、帝江じゃよ。またの名を、ディージアーン」
「帝江? ディージアーン? それは何なのですか」
「うむ、この帝江はな、わしがデンジャラスな遺伝子操作によって造った、人工神じゃ。この中国の古い地理書、『山海経』にもその名が見える(といって手に持っている本を示した)、由緒正しい歌と踊りの神さまなんじゃよ。ところが、一つ困ったことが起こった。本来なら四つの巨大な翼をもつはずなのに、ホンの少し遺伝子の配列を間違えたばっかりに、四つの巨大な耳をもつファニーな生命体になってしまったのじゃ」
 その場に沈黙がおとずれた。バジは間をもたせようと、
「な……名前は何というんですか」
「ミミみじゃ。かわいいじゃろ」
 非常に微妙なところだが、そうですねと言ってお茶を濁す。
「で、用件とはなんですか?」
「この帝江のミミみちゃんを一人前の神さまにするために、バジ君にも手伝ってほしいのじゃ」
「……まず一つ、質問があります。どうして、よりによって帝江を造ろうと思ったんですか? 先生の技術だったら、他にもいろいろな生き物が造れるのでは」
「ん? だってまず、中国の伝説の生き物というだけで、ドキがムネムネだわい! それに、この丸みを帯びたフォルム、なんかクセになるじゃろ」
 バジは思った。奇妙奇天烈な話が多いって理由で、前から古代中国にハマってるトーフー博士だけど、まさかこんなにこじらせていたなんて……まあ、クレイジーな人とはいえ、ときどき遊んでもらってるし、嫌とは言えないな。伝説の生き物に接するなんて、滅多にできることじゃないし。
「わかりました。いいですよ! 頑張って、ミミみちゃんを一人前の神さまにしましょう」

 それからミミみの特訓が始まった。バジも歌と踊りには多少の心得があったので、さながらバトル漫画の修行編のように、それは徹底的に行われた。ミミみはスピーカーから流れるリズミカルな音楽に合わせて踊る。
「ほら、もっと腰振って! 足がもつれてるよ! え? 六本あるからしょうがない? 言い訳しない!」
「もっと笑顔で! え? 顔がない? 気持ちは笑顔で!」
 無理難題をつきつけられたミミみであったが、さすがは踊りの神、やがてそれらを克服し、みごとフレッド・アステア顔負けのステップとマイケル・ジャクソンもびっくりのキレあるムーンウォークを習得したのである。
「さて、次は歌だな。ミミみ、なにか歌ってごらん」
「イヤアアアアア……」ミミみの耳の穴から、悲鳴のようものが聞こえた。
「彼女の鳴き声じゃ。おそらく、Earってことじゃな」
「いや、なんでそこだけ英語」
「とにかく、発音からじゃな」
 一週間後。
「エンダアアアアアイヤアアアアア」
「さすがはミミみ! その調子だ」
 その驚異的な音感(感度は人の二倍)とハイトーンヴォイスによって、ミミみは難なくマリア・カラスも嫉妬する歌声をものにしたのであった。
 こうして彼女は『歌って踊れる神アイドル・ミミみ』としてのデビューを飾ったのである。
「ミミみの稼ぎの三割はわしの懐に入る契約をした。これで研究費を工面できる」
「いや博士、それが狙いだったんですか! 第一、神さまじゃなくてアイドルになってるし!」
「バジ君、ただのアイドルではなく神アイドルじゃよ。それに、驚くのはこれからじゃ。見ておれ!」
 ミミみはデビュー当初こそ奇異の目で見られたものの、その愛らしいルックスと確かな実力でスターへの道を着実に昇っていき、ついに数万人規模の単独ライブを成功させるほどのトップアイドルとなったのだった。ミミみ! ミミみ! イヤアアアアア!

 そんなある日、バジはトーフー博士に呼ばれた。
「ミミみは、君の娘じゃ」博士はきっぱりと言った。
 バジは口をあんぐりと開けた。「どゆこと?」
「実は、ミミみの創造には、バジ君の髪の毛から採取した遺伝子も使っていたのじゃ。じゃから、君はミミみの父親、ということになるのう」
「え、ミミみに人間の、というか僕の遺伝子を使ってたんですか? それって、生命倫理的に大丈夫なんですか?」
「そんなこと気にしてたまるかい。わし、マッドサイエンティストじゃし」博士の目玉はグルグル回っている。
 驚愕の事実を知りいてもたってもいられなくなったのと、このヤバい人から一刻もはやく離れたいのとで、バジは思わず駆け出した。
「これでいい……これで」そう言う博士の口元には笑みが。

 ここは幕張メッセ、『神アイドルミミみ様』と扉に貼られた控え室。彼女は鏡の前で「イヤア……」と(耳から)ため息をついていた。神とはいえ、連日の過密なスケジュールは大きな負担になっていたのである。
 バンと勢いよく扉を開けてあらわれたのは、もちろんバジだ。ミミみの耳が、ピクリと動く。
「ミミみ、すまない! 僕らは、いままで君の気持も考えずに、大変な仕事を押しつけてしまった。アイドルは確かに素晴らしい職業だけれど、君が望んでなったものじゃないよね。たのむ、どうかこれからは自由に生きてくれ! 僕は君の父親として、なにもできなかったけれど……」
 彼女の中で何かがはじけた。全身をまっ赤にしたミミみは彼を押しのけて控え室から飛び出す。
「まずい、興奮してる。待ってくれ、ミミみ!」
 バジは必死で後を追う。外に出れば、時は夕暮れ。すれ違う人々が口々に言う、いま浜のほうに走っていったの、アイドルのミミみじゃね? バジは思う、ひょっとして、どうしたらいいかわからなくなって、海に身を……?
 必死に走り、そして浜辺に着いたバジは見た、ゆっくりと海に沈んでゆくミミみを、いや違う、沈んでゆくオレンジ色の夕日の中、四つの大きな耳を羽ばたかせて優雅に飛翔する一柱の帝江の姿を――。
「……ミミみ! 元気でね! 楽しく生きろよーっ!」
 勇ましく大空を飛ぶミミみが、はるか遠く水平線に消えてゆくのを見送ったバジは、涙をぬぐい、そのままスキップして家に帰ったのだった。

 一方、何も知らないミミみのファンたちは、メッセを満員にして「ミミみ! ミミみ!」の大連呼をいつまでも、いつまでもしていましたとさ。イヤアアアアア!

 いや、マジじゃって。それより、新しい子、見てく?

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