神アイドル☆ミミみ 第二話『決戦はニューヨーク! 謎の男ボブと最凶の刺客‼』

ジョニー南側

 説明しよう! マッドサイエンティスト・トーフー博士によって造られた人工神・ミミみは、象のような身体と四つの大きな耳を持つ、のっぺらぼうのファニーな生命体なのだ! 彼女は一時トップアイドルまで昇りつめたものの、父親のバジから「自由に生きろ」とさとされ、神生(じんせい)の新たなステージへ飛び立ったのであった!

 アメリカはニューヨーク、マンハッタン。寒空の下、摩天楼が連なりあって伸びている。夢と挫折、希望と絶望。ドラマが始まり、終わる都市。あらゆる人間がここに集う。
「イヤア……お腹が空いたわ……」
 ミミみはそこにいた。東京湾から飛び立ち、一度はそのまま心の故郷である中国へ行こうとしたが、かつて歌と踊りの練習をしていたころ、遊び人バジがしきりに語っていた夢と希望の国アメリカを一目みたいと思いUターン、千葉を飛び越え、太平洋を渡り、西海岸で一休みしたあと大陸を横断、ついに憧れのNYまで来たのである。 
 来たはいいものの、財布を忘れ、食べ物にありつけず、おまけにひどい寒さ……ミミみは道端で新聞にくるまり、ただひたすらプルプル震えていた。
「夢の国って聞いてたけど、これじゃまるで地獄じゃない」
 などと愚痴っていると、無表情な黒人が近づいてきた。
「ヘイガール、お腹が空いてるのかい。これでも食うか?」
 と言って差し出してきたのは、そうBigMac! もちろん本場アメリカンサイズ!
「イヤッタアアアアア!」
 ミミみは礼も言わずにひったくると、夢中でむさぼる。
「hahaha、耳から食べるんだな! ソーキュート……」
 食べ終えると次には疑問がわいてきた。
「あんた、いったい何者?」
「おれはボブ。なに、通りすがりのアーティストさ」
「絵でも描くの?」
 ボブは頷くと、ポケットから取り出したスプレーをミミみに吹き付けた。
「イヤアアアアア! なにすんのさ!」
「へへ、悪い悪い。まあ、見てみなって」
 と言って手鏡でミミみを映す。
「イヤアアア……顔が……顔が……」
 ミミみののっぺらぼうだった顔は、今やクレオパトラ顔負けの超美人のそれである。
「あんたすごいのね! 気に入った、あんたについてく」

 それからミミみはでかいポテトを食べたりでかいコーラを飲んだりでかいアイスを舐めたりして楽しく過ごした。すっかりイイ雰囲気になった二人は港に並んで立っている。
「そろそろ日が暮れるな」
「日本を飛び出した時も、こんな夕暮れだったっけ……」
「ジャパンでの暮らしはどうだったんだい?」
「イヤア……なんというか……大変だったわ」
「そうかい、言いたくないならそれでいいさ……」
 ボブは優しくミミみの顔(の落書き)にキスをした。
「イヤ! 大胆……でもそこじゃなんにも感じないわ」
「オウソーリー、それじゃあ次は……」

「待つだよ、ボブ!」
 突然現れてイイ雰囲気を台無しにしたのは、いかついスラムのギャングたちだ。その中心には、アジア系の眼つきするどい男がいる。その言葉には独特の訛りがあった。
「これはこれはミスターキング、遠路はるばるご苦労様だな。こんなところまで俺を追いかけてくるとは」
「お前さんだけは許さないだよ。よくもまあ、『凶星』を裏切りやがって。このままじゃ、初代キング様に顔向けできないだよ。死して償え!」
「立派な先祖を笠に着て、あくどいことを平気でやりやがって。大体、その先祖と血がつながってるかどうかも怪しいだろうが!」
「イヤアアアアア! これはいったいどういうこと?」
 ボブはため息をつき、哀しげな声で言った。
「実は俺、中国の秘密結社『凶星』から抜け出して、ここまで逃げてきたんだ。そこにいるのはミスターキング、組織のボスだ」
「それなるは帝江だな? 羽の代わりに耳が生えているとは珍しい。これはいい見世物になるだよ! お嬢さん、故郷に帰りたくはないかね?」
「あんたなんかと一緒に行くのは、イヤアアアアア!」
 行け、というキングの命令でギャングたちは一斉に襲いかかってきた。ボブはスプレーとライターを取り出し、即席の火炎放射を繰り出した。不意を突かれた賊は一瞬ひるみ、ひどい煙と臭いからやっと逃れた時には、すでにミミみとボブの姿はなかった。
「逃げられたか! だが、ヤツを刺客として放っておいた……あの二人は終わりだよ」

「ここまでくれば大丈夫か?」
「ボブ、二度も助けられちゃった……ありがと」
「おいおい、泣くなよ。せっかくの美人が台無しだぞ?」
「イヤ、これは熱で落書きが溶けてるだけよ」
「hahaha、そいつは傑作……ミミみ、危ない!」
 突然、きらりと光るカミソリのようなものがミミみを襲い、ボブはそれを庇って頬に傷を負った。
「イヤア! ボブ、大丈夫?」
「心配ない。首から上はどうでもいいのさ……」
 ミミみはボブの奇妙な言葉に少しひっかかったが、襲撃者を見てそんな疑問は吹き飛んでしまった。
 目の前にいたのは、するどい爪と大きな黒目を持つ、二足歩行のヌメヌメした爬虫類のような生き物だった。背骨に沿って、するどいトゲが生えている。
「なんなの、こいつ! エイリアン?」
「こいつは……チュパカブラだ。キングの野郎、南米からとんでもないものを連れてきやがって!」
「チュパ! チュパ!」
 想像以上にダサい鳴き声を発しながら、チュパカブラは素早いジグザグ移動でボブの火炎放射をかわす。そしてあっという間にボブの目の前まで来ると、鋭い爪を一線、ボブの首と胴体はあっけなく切り離された。
「イヤアアアアア! ボブウウウウウ!」
 ボブの死はミミみの秘められた力を覚醒させた。古代中国から伝わる『真実の舞』を踊るミミみ。とっても華麗だ!
 するとチュパカブラは自分の鳴き声の救いようのないダサさに気づき、恥じて一目散に南米へと帰っていった。

「ボブ、そんな……イヤ……!」
 無残な姿になったボブの首を耳でかき抱き、ミミみは慟哭した。
「……うーん、あーびっくりした」
 声の方向を見れば、なんとボブの胴体だけが勝手に起き上がって、呑気に伸びをしている。
「イヤアアアアア! ゾンビ! ボブ、成仏してえええ!」
「ミミみ! 違うんだ、言い忘れてたけど……」
 そう「言って」、おもむろにボブの胴体は服を脱ぎ始めた。裸になった上半身には、表情豊かなボブの顔が描かれていた。いや、正真正銘、本物の顔が張り付いている。
「イヤイヤ、もう訳が分からないわ」
「……実は俺、中国の古き神、刑天の末裔なんだ。いままでのはただのハリボテで、こっちがホントの顔ってわけ」
 ミミみはトーフー博士のフトした独り言を思い出した。「あー、刑天いいよなー。すごいファニーで。捕まえるか造るかしてみたいなー」
「まさかあなたが、その刑天?」
「どの刑天だか知らないけど、そうだよ。黒い肌の刑天は珍しいからって、小さいころから『凶星』に入れられて、アンダーグラウンドな世界で見世物にされてたのさ。やっとのことで『凶星』を抜け出して、自由に生きられる場所を求めてここまできたんだ」
「イヤア、そういうことだったの。ずいぶん苦労したのね」
「君だって……ところで、さっきの続きだ」
 ボブの本当の唇が、ミミみの耳に優しく触れた。
「ニューヨークにも飽きてきたな。ミミみ、一緒に世界を回らないか? 二人で、楽しくやってこうじゃないか」
「イヤ……じゃない。イエエエエエス!」

 ――楽しく生きろよーっ! ミミみは誰かのそんな言葉を思いだしたが、新たな冒険への扉が開かれた喜びにまぎれ、その人の顔も、名前も思い出せなかった。

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