ボヘミアン・ラプソディー

OG

最初の出会いは、2年前の夏だった。
SNSで知り合い、お互いの趣味も合うので、打ち解けるまで時間はかからなかった。
食べ歩きが好きな私は、彼女を誘い彼女の住む街で食事の約束をした。
とても暑い日だった。
待ち合わせの時間が過ぎても連絡は無く、DMで連絡するも返信は無し。
暑いし帰ろうとした時、返信が来た。
不慣れな街なのに、〜丁目の喫茶店に居るからと言う彼女。
少し憤慨しながらも、その喫茶店を探し当てテラス席に座る彼女らしき人を見て愕然としてしまう。
事前に教え合った容姿とは掛け離れていたからだ。
重い病気で長期入院してたという彼女は、崩れてしまいそうな程、細く、髪は薄く、肌は土色で目は虚ろ、声を掛けて、初めての挨拶を交わしたものの、会話が弾まない……
移植手術を受けて退院して間もないという彼女。
そんな身体で何故、真夏の炎天下なのに出てきたんだと思いながらも、目的である飲食店に行き食事をする事となった。
彼女はコーラを、私はハイボールを頼み、食事制限のある彼女に合わせた料理を注文をした。
涼しい店内で落ち着いたのか、彼女はポツポツと話し始めてきた。
私は、SNSでのやり取りである程度の趣味趣向は知ってはいたが、相手の話のコシを折らないように相槌をうちながら聞いていた。
食事を済ませて次回の約束をし別れた。
その後、2〜3回会って食事をしたが、何事も無く会わなくなりそのままになってしまっていた。
そして、2年後の平成最後の12月に突然会わないかという連絡が突然に来た。
また彼女の住む街で待ち合わせ、久しぶりに会った時、お互いが気が付かない程、私達は容姿が変わっていた。
私は、髪が薄くなり、だいぶ肥えていたし、彼女は見違える程に、肌は血行が良くなっていて、髪は増えて伸ばして、細身ではあるが、崩れてしまいそうな程ではなくなっていた。
再会の挨拶もそのままに、彼女の案内で沖縄料理の店に行く事になった。
食事をしている時、酒ではなくお茶を飲み、少量しか食べない彼女に2年前よりは、健康そうに見えても、臓器移植という大手術をした彼女に少し同情してしまった。
久しぶりに会った為か、2年前とは違い会話は大いに弾んだ。
その時、公開されていた映画「ボヘミアン・ラプソディー」を観る約束したり、恋愛について語り合った。
彼女は、離婚を三度経験しているいわゆるバツ3だった。
3度の結婚生活は全てDVを受けていた。
チンピラまがいの旦那もいたらしいが、ダメ男ばかりに巡り会う"そういう体質"の女性を見たのは初めてだった。
恋愛でも男運無かったなと言う彼女に私は私の恋愛遍歴を語った。
今まで本気で相手を好きになった事がない事、束縛されるのも、するのも嫌いな事、このまま惰性で生き、くたばるんだろうねと。
その時、「ワタシと本気になってみる?」突然の事に驚き、咄嗟に言葉が出てこなかった。
忘れていた感覚だった。
私は、子供の頃から何故か割とモテた。
20年以上一緒いる内縁の妻がいて、遊びもしたし、言い寄られる事も何度かあったが、あまりにも唐突でドギマギしてしまった。
ようやく我に返り、狼狽している事を隠しながら、「私には、別れられない女性(ひと)が居るから」と言うのが精一杯だった……
その後、「ボヘミアン・ラプソディー」を観て二人で泣いたり、何度か映画を観て食事をしたりした。
ある日、再会して以来行きつけになってた沖縄料理の店じゃない所に行きたいと言う彼女に連れられて、京都を前面に推す店で食事をしていた時、「マスター(沖縄料理の店)に嫁が居る相手を誑かすなって言われてる」と彼女が言った。
その時はまだ彼女に対して恋愛感情はそれ程無く、変わらない日常の中の火遊びにもならない遊びを楽しんでいるつもりだけであったが、何故か腹が立った。
平成最後の正月を過ごし、正月気分が抜け切らないうちに、あっという間に1月が過ぎ、2月になったばかりの頃は、それまで彼女の好意的な態度に気付かないフリをしていたが、バレンタインのチョコレートを貰った辺りから、私の心にも変化が出始めた。
それからは、自分でも驚く加速度で彼女を好きになった。
毎日の様に、目を逸らさず愛を囁き、逢う事に手を繋ぎ歩いた。
恥ずかしながら、何度も女性とお付き合いして来たのに、手を繋いだ事が無かったし、愛を囁いた事も無かった。
男とは〜という時代錯誤の考えでずっと生きてきたからだ。
内縁の妻も考えが古く、そういう男と女だからこそ、20年以上一緒に住み続けてきている。
何度も逢瀬を重ね、愛を重ねた。
とびきりの美人でもなく、豊満な身体でもない。
しかし、大きな移植手術痕が残っている彼女の身体に私は、溺れた。
その大きな傷痕さえ神々しく見え、死の淵から生還したその勲章に何度も唇を這わせた。
桜が咲く頃に、何度も御苑で二人で散歩をして、大のお気に入りの場所になった。
そして、彼女を自分の故郷に連れて行きたくなり、桜前線を追いかける様に故郷に連れて行った。
子供の頃に過ごした学校や海や山に連れて行き、背伸びして遊んだ街で、旧友と一緒に食事をしたり、3日間を満喫した。
実は、帰郷した本当の理由は、母親の手術があったのだ。
私は、母親や父親に、彼女を合わせようと思っていたが、当然だが彼女は頑なに拒否をした。
桜が咲く頃だけど寒い故郷の春だった。
天皇陛下が御譲位され、新しい元号が令和になった。
今度は、彼女のルーツである近郊ではあるが、故郷にドライブがてら行き、彼女が幼少期に過ごした土地や家を見た。
ほぼ、廃墟と化したその家は、他人に売却する事になっていて、手入れが必要な庭や小屋や母屋を見て廻り、彼女は、涙を流していた。
その頃から彼女は、自分の欲求を直球で私にぶつけてくる様になり始めた。
嫁と別れて欲しいと泣く彼女に私は、何度も別れられない事を告げた。
そのくせ彼女には、相変わらず愛を囁く、狡い男のままで、答えを先送りし続けた。
内縁の妻も身体が弱く病気がちで、それでも20年以上私を支えている。
そのくせ彼女の事も、本気で好きなのだ。
全く、だらしのない男……それが私だ。
彼女の要求は、日を追うごとに度合いがキツくなって行き、口を開けば私に食ってかかっては、泣き喚く有様で、私は少し生き急いでいる様に見える彼女に困惑した。
その理由は、彼女の身体的状態からで、彼女は焦っていた。
いつ召されるかもしれない身体だからこそ、最後を私に看取って欲しいのだという。
私は、正直なところどうしていいのか、分からない。
二人とも病弱な身体で、支えを必要としている。
どちらも捨てる事が出来ない……
私は、常々思っている事があります。
自分の幸せだけを考え、求めて生きればいいんだと。
しかし、こうも思っている。
子供の頃から何事も中途半端に生きてきた私の存在意義として、烏滸がましいが、人の役に立つ事が出来ないかと。
私を必要とする人のために生きようと。
そして、二人に出逢ってしまった。
私は、少し考えなければいけないのだ。





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