豪華な部屋

白木 裕

噂であるホテルの絵画の後ろにお札が貼ってある部屋は、霊障があると言われているが実際見つけても最悪部屋を変えてもらえる。それに早々見つけたりはしないものだ。だから心配ない。しかし本当にお札を貼ってる部屋に客を通すのだろうか……。

これはAが添乗員をしていた時の話。その日は一泊旅行で添乗員として多くの客を連れて、有名な観光地に出かけた。そこは近代的なホテルでホールも豪華で、宿泊客も洗練された感じだった。売店も大きく、普通の土産よりはお洒落な土産を取り扱っていた。チェックインを済まし、客たちはそれぞれ部屋に向かった。エレベーターホールで最後の客を見送ると、今度は自分達も客室に向かう。チーフからキーを渡される。キーには名前が書かれていた。チーフCは三階の部屋、Aは一階の部屋だった。入った瞬間一階なのにかなり豪華な作りだった。玄関を低めの段差を上がると、畳張りでい草青臭い香りがし、部屋全体は16畳以上の大きさに、低めの大きめのベットがある。風呂トイレは別で、中は豪華な檜風呂が設置されてる。屋上には大浴場も完備されてるので、こちらは内風呂。押入れは何もなく、金庫が下の段に入ってる程度。冷蔵庫には大量の飲み物が冷やされ、上の段にはアイスと氷が入っていた。テーブルには様々な土産用のお菓子の試食と無料券が付いていた。この無料券は「食べて気に入ったら持ち帰って下さい」と言うもの。ホテルによってあったりなかったりする。最近はないツアーも多いと聞く。添乗員が持っていれば客も美味しいかもと購入したり、バス内で話せば、売れたりするので初期投資として置いていた。マッサージ機もあり、中庭があり、小さいが鹿威しの音が時折していた。TVの横に大きな絵画が飾られている。油絵みたいで少し塗り跡が見える。ゴッホのようなタッチだが、別人が描いたような風景画だった。別にこれと言って特徴はない。豪華な部屋で、とても添乗員がついでに泊まる感じではなかった。荷物を置きスーツを着たまま、宴会スペースの確認へCを探しに行く。

ホテルスタッフに指示出してるCを見つけた。酒の本数、料理の品数を確認して、客の到着を待った。ホテルの従業員が慌ただしく運んでいる。手持ち無沙汰になったAはCに聞いた。「ずいぶん部屋が豪華ですね」Cが準備に取り掛かるホテル従業員を目で追いながら「そうか、部屋が気に入ったなら良かったんじゃないか」と言っていた。Aは「ん?」と感じた。日本語が少し変だ。何か含みがあるのか。ホテルの宴会担当者に呼ばれ、行ってしまった。これ以上聞くことは出来なかった。宴会の時間になり、徐々に客が集まってくる。入り口で出迎え、各卓を伝えていた。マイクで宴会開始の声が聞こえ、ガチャガチャ食べ始める音がした。添乗員の仕事は一旦ここまで、今回は宴会担当者が全てを担ってくれてる。食事も豪華で客も大満足そうだった。添乗員と言うのは、添乗員用のメニューがあり別室に案内される。ガイド・運転手用メニューもある。今回は完全に別でCと2人案内された個室に入る。1番豪華なのは添乗員用のメニューである。豪華なスペシャルメニューあるのだが、そのホテルでは改装したてと言うことと、ここの売りを見せて次回も利用してもらおうと、テーブルに載らないくらいのメニューを出してくれた。アルコール類も飲み放題で、スペシャルメニューはサービスとなっていた。取り敢えず、Cの飲み物とAの分を注文した。従業員がお辞儀をして取りに行く。少しすると水滴のついた瓶ビールを持ってきた。自分はウーロン茶にさせてもらった。先輩から許可が降りて無いのにアルコールを頂くわけにいかない。

Aは瓶ビールを持ちながらCに「どうぞ!ここの食事かなり豪華です。新しくしたウリをメインに出してますね」と話したら「まぁ昔はボロかったから、新しくしたから感想聞きたいんだろ。アンケート後で出しといてやりな」「はい!」としながらCの顔色が悪い。「具合悪いんですか?市販薬ならありますが?」と聞くと「いや、大丈夫だ。それより部屋に入ったら明日早いから早く寝ろよ。あと…絶対に枕が違うからって……起きるなよ」そう言って殆ど食べずに、部屋に向かったC。その後ろ姿を見ながら、見送った。ある程度A食事をし、部屋に戻った。部屋は気配がある。何故?清掃には早すぎる。布団を用意したにしてもここはベットがあるのに、布団を敷く意味がない。人の気配がするが気のせいだろうと、大浴場に向かった。大浴場は広めの中風呂と露天風呂の2種類だった。温泉街の夜景が見える。景色もいい。ゆっくり浸かり、満足して部屋に戻る。髪を乾かしながら明日の支度をして、TVをかけたが眠くなり、布団で寝ることにした。たまに鹿威しがなってる。コン、コンといい音が鳴ってる。だんだん瞼が下がる。音につられるように徐々にゆっくりと脳の奥へと落ちていく。

寝苦しい。なんだ。何かが布団の周りにいる。いや付近を歩き回ってるような、変な気配に好奇心が負けた。布団を被るような形で寝てたのを少し下に下げて覗いてみた。何もいない。落ち着かない。眠る前にあった空気感がガラリと変わる。安心感のある場所から他人の家に上がったような緊張感がする。嫌な気分だ。何故だろう。ここで寝る無防備さに不安が襲う。辺りを見回したA。元々電気をつけたまま寝れないAは電気を消して寝ていた。暗がりとはいえ、外の鹿威しに灯篭の光が優しく照らしているが、これが蝋燭のように不気味に照らしてる。時折揺れるように感じる。その時、布団の下から衝撃が襲う。布団をドン、ドン、ドンと拳で叩きつけきた。それが徐々に移動してくる。布団が叩きつけられるたびに引っ張られる。なんだこれは。見たが誰もいない。しかし布団には凹みが出来てる。思考が追いつかない。衝撃で脳が停止した感じだ。考えるより感じるそんな状態だった。ガタッ! と絵画が落ちた。ガラスが割れ、絵がむき出しになる。気持ち悪い。壁に手を当てながら、何者かが通ったようだ。ありえない。その間もドン、ドンと布団は叩きつけられていた。ここでは眠れない。しかし、まだ朝にならない。体に衝撃が来ないように、丸めながら布団に潜ったまま過ごした。足の方ではドン、ドンと衝撃があり、眠くはならなかった。小さな声で「いなくなれ、いなくなれ」何度も何度も呟いた。何かに祈った。それは何に祈ったかも記憶にない。外が明るくなり、衝撃は最後にドドドンとメキャクチャに叩きながら、気配が消えた。身体中から汗が噴き出していた。あれは夢だと割り切りたかったが、割れた額縁がある。絵画が剥き出しになってる。 この絵に何が、と思いガラスに注意しながら裏面を開けた。隙間一面にお札が貼り付けてあった。その時Aは昨夜の事を理解した。添乗員には豪華な部屋。それは客に泊めれないからだ。理解した瞬間ゾクってする。フロントに絵画のことを伝えると、ホテル併設の売店から紙袋二つ分のお土産を渡された。黙って受け取り、お客様が来る前にバスに荷物を載せ、集合時間まで、外で客をまった。部屋に戻る勇気は無かった。いや、ホテルの中に居たくなかった。

朝落ち着いてからCに聞くと躊躇しながら、そこは出ると有名らしいと語った。以前の旅館の時に事件があり、それで亡くなった方がいたと。一度見るともう2度とその部屋には通されないと。言ってるCの顔色が悪い。Aはあぁと思った。ここはAの推測だが、Cも初めて来てる。Cはこれに怯えていたのだ。部屋が上とか下とか関係ないのだ。Cの部屋でも何か起きた。事前に他の人から、ここは出ると聞いていたのだろう。現に客に誰も満足し、不満はなかった。そして、Cの部屋の方がかなりまずいものがいたのだろう。Cの腕に掴まれたドス黒い跡がある。流石にこれが自分が知ってても言えない。言え無かったのだろう。何もなければ寝れるわけだから。その後ホテルは現在は震災で無くなってる。

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