眠りがおかしいひとりの話

史朗十陸 平八


「この夜は明けない」
月明かりの差し込む障子窓を背に、その人はわらっていた。
大きな体、大人だ。

あたしとは違う大きな手が、ゆっくりと障子窓を開けた。
「だって、朝が来たら明日が来る。明日が来たら、何をする?」
いつも通りの明日をする、そう答えるとだからこの夜は明けないと答えた。

「いつも通りの明日が来たら君はどうする?」
いつも通りの明日をする。
その人はあたしと違って長い髪をさらりと流して、ゆっくりと首を振る。


「だからこの夜は明けない」

月はずっと斜めに傾いたところでじっとして、時々真ん中に上る。
それでも気が付くとやはり、傾いたところで元通り。

「日時計って知ってる?」
知ってると答えた。
面白いから影をずっと見ていたから、その時計の存在が面白かった。
幼稚園でも有名だ、だから知ってる。

うんうん、と満足げにその人は頷いた。
そして続けて月を指さして言った。
「月時計って知ってる?」
基準は知らなくてもきっと日時計と同じかな?
そういうとその人は正解、と言って笑った。

大きく開けた障子窓から月は見えない。
それでも明るい光が差し込んでくるのが少し眩しくて目を細める。
寝床の押し入れ、布団の中でその人を見ていた。
眩しいと分かっているのに、開けられるだけ窓を開けたその人は悪戯が好きそうだった。

「なんで月が動いているか知っている?」
地球が回っているから、そういうと首をふる。
そう言う事じゃないと、いうその人は何を言いたいのだろう?
「この顔知ってる?」
自分の顔を指さす人。

そういえば、知らない気もするし知っている気もする。
何処かで見たんだろうか?大人の顔はあんまり覚えていない気がする。
何で覚えていないんだっけ?

「明けない夜の月がどうして動くか知ってる?」

分からなくて首を振った。
この夜は明けない、そんなの言われるまで気が付かなかったのだから知るわけない。


「君がずっと見ていたからだよ」

言葉が、出ない。

なんであたしが見ていると夜が明けないんだろう?
首を傾げるあたしに分かっているというように勝手に喋り出す。

太陽が真上に来れば、それお昼だね。
上るのが7か8時なら5時間経っている。
大体九十度角度が変われば、5時間経過。

「じゃあその半分は?大体同じ原理の月時計、時間が短いとして君はどれだけ見ていたの?」

四十五度から二十度、半分、短くても2時間から1時間ずっと見ていた。
見るしかできなくて、ずっと見ていた気がする。

「九十度、見つめて、月がなくなることもあるよね?」


ねえ、君は何時寝ているのかな?


この人と話しているけどまだ寝ていない。

あれ?

「十分に眠れもしないのに朝になれば幼稚園、そして寝る時間まで起こされる」
「寝続ければずっと寝れる、体力が尽きないなら12時間以上」

何で、あたし、寝てないの?

「ねえ、今眠たい?」

「ねむたくない」
「寝たい?」
「ねたい」
「眠れないっていった?」
「いってもねてるっていう」
「寝すぎて怒られた?」
「うん」

「ねえ、朝になりたい?」

明日になりたい?

あんまり眠れてないのに起こされることもあった。
眠れそうな時に起こされることもあった。
ずっと、ずっと、我慢してた。
あたしは悪い子なんだって、思って…

「素直でいいよ、怒らないからね」

やだ、と言ったあたしにその人はにっこり笑った。


「私も寝れないと言いたかったし眠りたかったんだよ。
 羨ましい、そうやってずっとこっちにいればいい。
 大人になっても、全く変わらないからね」

ずっと、私はこう言ってもらいたかったのは知ってるからね。

その人はそう言って嗤った。


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